働く広場2020年11月号
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 しかし、職場では障害のある人とない人の違いを感じたこともあり、それが藤井さん自身の人生に深く影響している。それは給料の「格差」で、ほかの従業員よりも給料が低く、どんなに仕事をがんばっても追いつくことができない現実に、藤井さんはあらためて障害のない人との間に高い壁があることを感じ、それを疑問に持ち始めるきっかけにもなったそうだ。(3)社会人第二歩 そのころ、足立学園を卒園して印刷関係の仕事にたずさわっている友人2人と再会し、仕事の現状や悩みを何度も語り合った。そのなかで自分たちは同じ思いを持っていることがわかり、それぞれが抱いていた悔しさは、後に「障害の有無にかかわらず、同じ給料がもらえる会社を自分たちの手でつくろう」という、新たな目標に変わった。 1984(昭和59)年9月11日、3人は資本金400万円の「有限会社足立写植」を設立。社屋は民間アパートの一室を借り、写植機材とカメラ、仮眠用のベッドを用意して自分たちの夢「自分たちの稼ぎは自分たちの力で稼ぐ」を実現する仕事を始めた。 当時、文字組版や写真製版の世界では、手動写真植字から電算写植へと変化を続けていた時期で、誕生したばかりの足立写植にとって、利益を上げるように小規模通所介護事業、2018年に居宅介護支援事業、2019(令和元)年に医療保険の訪問鍼しん灸きゅう事業を開設して、地域の福祉活動にも貢献している。今回は、デジタルコンテンツ企画制作事業部の取材をお願いした。(1)デジタルコンテンツ企画制作事業部 会社に着くと、玄関で藤井さんから笑顔の出迎えを受けた。玄関で体温測定と手指消毒を済ませると、社長室に案内された。建物内に入ってまず圧倒されたのは、廊下の壁一面に陳列された、インコムジャパンが担当した漫画コミック本だ。まるでインターネットカフェのコミックコーナーや、まんが図書館のような雰囲気を感じた。 このコーナーを設置した理由を藤井さんにたずねると、現在、会社の主力業務になっている電子コミックのオーサリング(電子書籍化)の依頼を受けた作品を、データだけでなく本という形で残したいという思いから、藤井さん自らが本棚を作成して作品ごとに整理したとのこと。このコーナーの本は編集プロダクションや出版社から、オーサリング用として提供された底てい本ほん(※4)だそうだ。 日本の漫画やコミックは、電子出版・電子書籍の普及により、紙媒体の漫画を電子データに変換・加工する作業が急務の課題となり、写真製版業界もこの需要に対応している。インコムジャパンは現在なるまでの数年間は苦しい時期でもあったそうだ。そんなときには、会社名にした「足立」の由来を思い出し、会社から見える足立山(北九州市小倉北区にある標高597・8mの山)を眺めては、3人が一緒に生活した「足立学園」のことを思い出し、「自分たちの足で自立するためにがんばろう」と、それぞれお互いを励ましあうこともあったそうだ。 足立写植は、資料1の「組くみ版はん」という工程を担当してきたが、工程作業の変化(手動写植から電算写植そしてDTP組版へ)とIT化が進むなか、お客さまに広く理解してもらおうと、2007(平成19)年、組織変更とともに社名を「株式会社インコムジャパン」に変更した。 株式会社インコムジャパンは、JR小倉駅で新幹線から日にっ豊ぽう本線に乗り換え、下曽根駅から歩いて10分、国道沿いにあるマンションの1階にある。本部(21人、介護事業等スタッフ含む)と、東京オフィス(3人)、熊本オフィス(18人)、北九州市内にある事業所二つと合わせて、43人の従業員が勤務している。会社組織は、デジタルコンテンツ企画制作事業部と医療介護福祉事業部に分かれている。 医療介護福祉事業部は、2002年に介護保険の訪問介護事業、2012年に株式会社インコムジャパン製 本原稿・レイアウト入稿印 刷刷 版組 版(DTP)色校正校正・修正製 版版下データ➡➡➡➡➡➡➡➡働く広場 2020.11社屋入り口の本棚には、電子コミックとなった底本が並べられている出典:筆者作成 資料1 基本の印刷工程※4 底本:電子書籍の元となる紙の本のこと22

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