働く広場2020年11月号
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人々が理解を示す考えであるが、資料3で算出した賃金の差額は、障害のある人が「同等の働きができていない」という結果として解釈してよいものか、今後の検証が必要と考える。(2) 仕事に対する評価と甘え インコムジャパンの湯朝さんの話にも出てきた、「採用しても短期間で辞めていく人が少なくない」という現状について、藤井さんからもコメントがあった。 「特に短期間で辞めていく人に対する支援の在り方に苦労している。先日、障害者の就労支援を行う職業訓練校のスタッフに、会社で働いている卒業生の相談やサポートをお願いできないものか相談したが、就職するまでが学校の役割で、就職後は会社の方で何とかしてほしいと縦割り的な意見しか得られず物別れに終わってしまった」という。 また、北九州市内の特例子会社で障害者職業生活相談員として働いている藤井さんの知人からも、障害者雇用のむずかしさとして、①障害のある従業員に対する基本的な社会ルールの教育と、②障害のことを理解していない従業員に対する教育をどのようにすべきか、という相談があったそうだ。 ①に関しては藤井さんの会社でも、社会人としての基本的なルール(遅刻や早退、欠勤、業務に関する報告・連絡・相談など)を遵守することを、従業員すべ会社の賃金体系をもとに労働条件と業務に合わせて決定される。しかし、藤井さん、葭原さんが一般企業に就職して働いていたのはおよそ30年前、当時の2人の賃金格差がどの程度のものか定かではないが、2011年の障害者基本法改正、2016年の障害者差別解消法施行など、障害のある人の人権擁護の法的環境は整備されているにもかかわらず、足元の重要課題、賃金格差は現在も続いているといえるだろう。 賃金格差の考え方として、日本大学准教授の山村りつ氏は、社会政策学会誌「社会政策第7巻第1号」(2015年、ミネルヴァ書房)の「基幹的能力の概念を軸とした障害者の賃金についての考察」で次のように述べている。 「労働能力の理解については、障害の社会モデルによって障害者自身ではなくその環境によって能力が規定されるという考えが広まっても、実際の就労場面では、この『障害のない者と同等の働き』という基準が概ね採用されているといえる。この『障害のない者と同等の働き』という基準は、同時に同等の賃金が支払われることを意味する。逆に言えば、同等の働きができない者には同等の賃金が支払われないということであり、時にはそれが労働基準法にのっとった雇用契約が結ばれない根拠にもなる」 これは障害の有無にかかわらず多くの「格差」を実感するのは、いまでも賃金格差だと力説する。藤井さんは前職のタクシー会社で、葭原さんは自動車関連の会社で、それぞれこの格差を経験したことが、現在の仕事につながるきっかけになっているが、この格差の現実に悩み、いまの仕事を続けるか転職するか悩んでいる友人が少なくないそうである。 賃金格差の実態についてあらためて調べてみると、厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査」では、資料2の通りであった。この調査では、障害内容別に1カ月の平均賃金が報告されていて、四つの障害内容で平均賃金が異なり、最も平均賃金が高いのは身体障害者で21万5千円、最も低いのは知的障害者で11万7千円となっている。障害者間の差額は9万8千円におよび、障害の特性が賃金の格差に影響していることをあらためて確認できる。さらに、四つの障害別で示された平均賃金を平均すると、14万6千円となる。 また、この全障害の平均賃金14万6千円を一般労働者の平均賃金と比較すると(資料3)、差額は男性で約19万円、女性では約10万円であり、障害のある人の平均賃金は、一般労働者の平均賃金に対し男性で約4割、女性で約6割しか得られていない現状がうかがわれる(※障害者の平均賃金は男女別に分けていないので共用)。 賃金は一般雇用枠での採用と同じく、身体障害知的障害精神障害発達障害平均賃金215,000円117,000円125,000円127,000円平均賃金 男性平均賃金 女性一般労働者337,600円247,500円全障害者/平均146,000円146,000円差額191,600円101,500円働く広場 2020.11資料2 障害内容別1カ月の平均賃金 資料3 平均賃金比較※平均賃金/労働時間30時間以上、20時間以上30時間未満、20時間未満の平均出典:「平成30年度障害者雇用実態調査」(厚生労働省)をもとに筆者作成出典:筆者作成参考資料:「平成30年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)、     「平成30年度障害者雇用実態調査」(厚生労働省)24

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