働く広場2020年11月号
31/36

働く広場 2020.11  わが国では、身体障害者手帳の1級と2級の認定のある人は「重度障害者」として、雇用事業主にとって雇用率がダブルカウントされる等の優遇があります。しかし、例えば、身体障害1級である車いす使用者の方が、精神障害者より雇用の困難性が大きいということは一概にはいえません。 フランスでも2005年の法改正より前には、個人特性として就労困難性を3段階でカテゴリー化する制度がありましたが、現在では廃止され、障害重度は、実際の雇用事業主の経済的負担として個別・具体的に評価し補償するためのものと位置づけられています。 例えば、車いす利用者が事務職に就く場合、かつては最重度の認定でしたが、現在では重度認定されません。これは障害者差別禁止の考え方を反映しています。つまり、職場環境整備や人的支援等については当然、別途、助成金や専門支援が提供されますが、そのような合理的配慮が実施されていれば、多くの障害者は生産性の低下や職場での過重な負担のない有為な労働者であることが強調されているのです。 そのうえで、合理的配慮提供を前提としても、なお生産性の低下や職場で継続的な人的支援等の過重な負担がある場合に、当該障害者の継続雇用を希望する事業主は「重度認定」申請を行うことで、経済的支援を受け雇用継続を可能とする制度があります。具体的には、事業主はまが困難であることが多いので、このような方法で公正さが確保できるのか、支援業務がかえって煩雑になるのではないかと心配になるところです。しかし、就労困難性は、医学的に障害者本人だけをみて認定するよりも、多職種が密接に情報交換し、障害者就労支援や事業主支援の専門ノウハウもふまえたケースマネジメントにより認定する方が信頼性ははるかに高く、また、支援と一体的に行われるアセスメントと別物ではないため業務的な煩雑さもないのです。ただし、その際に留意が必要な点(表)がいくつかあり、フランスやドイツではこれらを確実に実施できるように、現場向けのマニュアル等の整備や担当者の研修が課題になっています。ず産業医による最適な職場配置や配慮等の勧告に応じた支援を実施する必要があり、それでもなお残る生産性の低下や経済的な負担等を申請し、「障害者職業参入基金管理運営機関(AGEFIPH)」が現地調査をふまえて審査し、障害者雇用義務に係る企業の拠出金を原資として、事業主は2段階の継続的な支援金を受けることができます。 ドイツでも2018年から「労働予算」の制度が始まり、合理的配慮確保のための各種助成金等とは別に、経済的に障害者の雇用継続が困難と考える事業主は、地域において障害者の社会参加や就労を支える「統合局」に申請し、専門的な事業主支援を受けた後になお生産性の低下や同僚等の従業員の継続的な負担が認められれば、負担調整賦課金(わが国の納付金に相当)を原資として、事業主は3段階の継続的な支援金を受けられるようになっています。  以上、フランスやドイツの就労困難性による障害認定や重度判定とは、障害者本人や雇用事業主からの申請により、専門的な障害者就労支援や事業主支援を前提として、実際の就職や就業継続の困難さや支援ニーズ、事業主の継続的な経済的負担を直接に評価するものです。 わが国の経験をふまえると、仕事内容や職場状況等の個別性・多様性は大きく、障害者本人、雇用事業主、多様な分野の支援者の間で障害者の就労困難性や就労支援ニーズの共通認識自体◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.or.jp)表 フランス・ドイツの就労困難性による障害認定・重度判定の留意点●就労困難性は、個別の仕事内容や職場等との関係での実際の障害者の就職活動や就業継続、あるいは企業の雇用継続の困難さにより認定(求職活動中か就業中にのみ認定可能。仕事内容や職場等が変われば要再認定)●就労困難性の原因として、軽度であっても医師の診断のある疾病や変調、外傷、傷害等が確認できることが必要●障害者の就労困難性による障害認定は、障害者雇用義務や合理的配慮の結果として就労困難性が軽減・解消される場合でも、障害者雇用義務や合理的配慮が必要であること自体により該当●事業主の継続的な経済的負担による障害の重度認定については、産業医や専門の事業主支援による最適な配慮の実施によってもなお、継続的に生産性低下や企業の過重な負担が認められる場合にのみ該当障害者雇用の困難性の判定2認定等の信頼性確保のための実務的課題329

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る