働く広場2020年11月号
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働く広場 2020.11「違う」といって別の糸を指さした。「あ、糸の種類が間違っていたのか。ごめん、ありがとう」とあわてて謝ったという。「袋の仕様は200種類以上になるので、どうしてもたまに糸の種類を間違えてしまうことがあります。ただこの知的障害のある従業員は、一度覚えたことは忘れないという長所がありました。ほかにも、同じ作業をくり返しても気を抜かず、ルールを守り通す従業員もいます。ベテランになってくると、健常者と同等かそれ以上の働きぶりなんですよ」と三樹男さんは話す。ミシンの前で、袋を両手で上下左右に動かしていた高たか嶋しま信のぶ明あきさん(42歳)はまだ入社して1年ほど。「仕事もずいぶん慣れました。ミシンの担当者がスムーズに縫えるよう心がけて、袋を動かしています」と話す。「みんなと楽しく働けて、しっかり時間内に作業が終わる職場です。休日は彼女と映画を観に行くのが楽しみです」と笑顔いっぱいで答えてくれた。その彼女も、同じ職場内で働いている。勤続11年で、いまは梱包作業を担当している渡わた辺なべ悠ゆう希きさん(28歳)だ。三樹男さんは「渡辺さんと高嶋さんは、二人で貯金をするなど生活に張り合いが出ているのか、働きぶりも熱心です」と温かく見守っている。渡辺さんは「職場のみなさんが親切で、社長さん夫婦には親のようによくしてもらい、本当に感謝しています。いただいているお給料のぶん、しっかりていねいに仕事をしていきたいです」と答えてくれた。高嶋さんのように縫製補助にたずさわっているのは8人だが、ほかに縫製作業や裁断を1人で担当している障害のある従業員も4人いる。その1人が2003(平成15)年入社の佐さ竹たけ康やす則のりさん(58歳)だ。奥まった場所で、袋につけるベルトの裁断を1人で行っていた。「作業はもう慣れました」と手を休めることなく答える佐竹さんは、車も運転し、休日は釣りに行くのが楽しみだという。三樹男さんが「大きな魚を釣ったときは持ってきてくれて、私の缶ビールと物々交換するんですよ」と教えてくれた。別の一角で、袋にベルトを縫いつける作業を1人で行っていたのは、岩いわ久ひさ茂しげ史ふみさん(38歳)。中学校卒業後に入社し勤続23年になるベテランだ。使っている工業用ミシンは、障害のある人が1人でも扱えるようボタン調節機能などが独自に改良されている。三樹男さんが説明する。「機械の改良は、障害者雇用を始めたこ工場内には、工程ごとに大型のミシンが複数台設置されている製品が大きいため、二人一組で息を合わせて縫製作業にあたる6

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