働く広場2020年12月号
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働く広場 2020.12発達障害の傾向とは、「①医学的に診断がつく可能性が高いが未受診・未診断状態である」、「②医学的に診断基準に至らないグレーゾーン」のいずれかとなります。加えて本人の自覚の状態はさまざまです。そこで、対象者について「地域センター利用開始時点では医学的な診断はないが、支援経過において職業上の障害の背後に発達障害の傾向があると判断できたケース」としました。発達障害の傾向があるケースは、実態として①と②のいずれかに該当すると予想され、各々を前提に実態を整理する必要がありました。また、専門家の意見も加えて、調査対象範囲を次の3群に分けて検討することとしました。 全国の地域センターの協力により、分析対象としてⅠ群105事例、Ⅱ群79事例、Ⅲ群94事例を得ることができました。調査では発達障害者の適応上の課題となりがちな「自閉症スペクトラム障害の行動特徴」と、発達障害に認められる「認知機能」の課題を項目として設定し、支援事例の特徴や機能の偏りの程度について回 発達障害は、従来、子どもの障害として小児科や児童精神科で中心的に扱われてきました。 しかし、大人になってもその症状は継続することが認知されるようになりました。最近では、労働者全般の健康安全を扱う産業保健の対応事例として、メンタルヘルス不全や気分障害など精神疾患の背景に、発達障害が疑われるケースが報告されています。 発達障害については、2005(平成17)年に施行された発達障害者支援法を契機に、教育、福祉、医療、労働など各方面で成人期の対応策が検討されています。 最近では、特に「自閉症スペクトラム障害(ASD)」や「注意欠陥多動性障害/注意欠如・多動症(ADHD)」が注目されていますが、これらの障害については精神疾患が高い確率で併存することが国内外の調査からわかってきました。多くの調査結果から共通して示唆されることは、発達障害と精神疾患の症状を適切に評価し、対応することの重要性です。 職業リハビリテーションの専門機関である地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)では、発達障害者のみならず、発達障害の傾向のある精神障害者に対しても個別的支援が行われています。しかし、発達障害と精神障害の併存そのものに着目した職業リハビリテーションにおける知見やエビデンスは、十分に整備されていませんでした。そこで、障害者職業総合センター研究部門において、「発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究︱精神疾患を併存する者を中心として︱(平成30年度~令和元年度)」の研究で、地域センターを利用している発達障害と精神障害を併存する者の実態と、対応の現状を明らかにすることとしました。 研究を進めるうえでは「発達障害の傾向がある対象者」を、どうとらえるかが大きな課題となりました。発達障害の診断を中心にした場合、調査研究報告書№150﹁発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究﹂障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門研究の背景1研究対象範囲の設定2調査結果3※ 障害者職業総合センター研究部門ホームページ https://www.nivr.jeed.or.jp/ 「調査研究報告書No.150」https://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku150.html 「発達障害特性と精神障害が併存する人の就労支援のポイント」https://www.nivr.jeed.or.jp/research/kyouzai/kyouzai65.html発達障害者(以下Ⅰ群)「発達障害」として利用登録している者。知的障害のない発達障害者(IQ70を超える者、またそれと同等とみなせる者)。精神障害者(以下Ⅱ群)「精神障害」として利用登録している者。発達障害の傾向がうかがわれる者。一般的なうつ病、気分障害に該当する者(統合失調症、てんかんを除く)。精神障害者(以下Ⅲ群)「精神障害」として利用登録している者。Ⅱ群に該当しない者。一般的なうつ病、気分障害に該当する者(統合失調症、てんかんを除く)。対照群となる。28

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