働く広場2020年12月号
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働く広場 2020.12 私は、幼いころから原因不明の生きづらさとうつ気分に悩んできました。そんな気持ちを晴らしてくれる愛読書が、北きた杜もり夫お氏のユーモアあふれるエッセイ『どくとるマンボウ』シリーズです。作品を読み進めるうちに、氏が作家になる前は精神科医師をされていたこと、そして自身も躁うつ病を患っておられることを知りました。「自分も精神科医師になって、こころの不思議にかかわってみたい」と考えるようになったのは、小学校卒業のころだったと記憶しています。 その後、曲折を経て医学部に進学し、念願かなって医師免許を取得、精神科専門研修へと歩みを進めていきましたが、ここで大きな問題が生じます。いま初めて告白するのですが……、「実は私、就職活動をしたことがない」のです。 大学を卒業する際には、現在も勤務する医療機関で初期研修医(※1)としてお世話になることを決意し、奨学金もいただいていました。子どものころから職員の家族として、ときには患者としてかかわりのあった病院でした。卒業時に就職面接などはなく、病院の人事担当者に食事に連れて行ってもらい、日本の医療の将来について語り合ったのがその代替だったと思われます。ずいぶんと大らかな、1980年代のことでした。 精神科研修医として診療で多くの当事者の方たちにお会いするようになると、彼らの「働きたい、でもどうやったらいいのだろう」、「自分たちに働くなんて、無理かも」などの切実な思いを聞かせていただく日々が続きました。就活経験のない私にとって、就労や職業リハビリテーションはまさに未知の世界でした。千葉市の幕まく張はりにある「障害者職業総合センター」に見学や研修に出向いたり、地域作業所の職員や利用者にお話をうかがったりして、少しずつ学んでいきました。なかでも、研修先の精神科病院のリハビリ専門職(作業療法士)に教えていただいた「就労するために必要なのは2点、基礎体力と、困ったときに周りに助けを求められる力」という言葉は強く印象に残っています。 たしかに、フルタイムで8時間働いて、残りの時間を通勤や家事、睡眠などに充て、翌朝再び出勤し業務に就くためには、それ相応の体力がついている必要があります。そして、精神障害のある方たちにはもう一つ、就職活動をしたことがない助けを求められる力精神障害のある方の就労社会福祉法人うしおだ理事長・精神科医野末浩之※1 初期研修医:医師国家試験に合格し、2年間の初期臨床研修を受けている医師2

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