働く広場2021年1月号
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大塚 トヨタは生産系の職場が多く、以前の障がい者雇用は聴覚障がいのある社員が中心でした。2009(平成21)年には特例子会社のトヨタループス株式会社(以下、「ループス」)が事業を開始し、そこでは重度の身体障がいや知的・精神障がいのある社員を多く採用し、おもにオフィスサポート業務をになっています。2014年からはループス社員の10人が「トヨタ記念病院」で看護助手のサポート業務も始めました。創業当時28人だった障がいのあるループス社員は、289人(2020年6月現在)となっています。 さらに2020年、初めて生産現場にもループス社員が進出することになりました。愛知県みよし市にある「下山工場」にループスの分室が開設され、モノづくり事業を始めています。下山工場は、エンジンや燃料電池関係の部品をつくる従業員1750人超の大きな職場です。2019年秋からのトライアル期間を経て、2020年4月に本格稼働しました。いまは4人のループス社員(聴覚障がい1人、知的障がい1人、発達障がい2人・10月23日取材時)が、生産ラインなどで組立てに必要な部品を揃える「前段取り」業務を担当しています。――大きな生産現場に入っていくにはハードル「Mobility for All(すべての人に移動の自由を)」に沿った事業にも反映されています。国際パラリンピック委員会の元会長で、車いすユーザーであるフィリップ・クレイヴァン社外取締役も「障がいのある人がより社会に参加するためには、移動の自由がカギを握る」と助言してくれています。例えば、いまは高齢の方も含めてなんらかの身体的な障がいがあっても、「できることは自分の力で行い、自らの意思で動く」ことが大事になってきていますね。運転しやすい車があるだけで、生活も意欲もずいぶん変わってきます。これまで私自身も多くのプロジェクトにかかわるなかで「動く自由が、人間の尊厳にも深くかかわっている」ことを実感してきました。 これまでトヨタはウェルキャブ(福祉車両)の開発技術を一般車向けに活用してきましたが、近年は、生活支援ロボットや遠隔操作のヒューマノイドロボットなどの開発も進めています。そして2021年着工予定の実験都市「WウーブンovenCシティity」(※3)でも、さまざまな「Mobi-lity for All」の実現を目ざしていきます。――SDGsの17の目標の8番目である「働きがいも経済成長も」に向け、障がい者雇用の新たな取組みも進んでいるようですね。――2020年5月には豊とよ田だ章あき男お社長が「SDGsに本気で取り組む」と宣言し、注目されました。大塚 自動車業界はいま、「100年に一度の大変革期」を迎えています。そのなかでトヨタは、自動車製造業から人々にあらゆる移動の自由を提供する「モビリティカンパニー」に変わろうとしています。ただし、そのドライビング・フォース(推進力)は、儲けることではないと考えています。 トヨタには、創始者・豊とよ田だ佐さ吉きちの「利他の精神」があります。佐吉が、はた織作業に苦労する母親を助けるために自動織機を発明したように、「目の前のだれかを楽にするために努力する」という思いがトヨタのルーツにあります。そこに立ち戻れば、私たちの使命は車をつくるだけではなく、世界中の人たちが幸せになるような物やサービスを提供する、つまり「幸せを量産していく」ことなのだと、現代表取締役社長の豊田章男は表明しました。既存の枠にとらわれず「どうしたらそのような社会にできるのか」をみんなで考え、それが企業の成長にもつながる。それをあらためて「だれひとり取り残さないSDGs精神」に表現し直したのです。 トヨタのSDGs精神は、トヨタが目ざす働く広場 2021.1★本誌では通常「障害」と表記しますが、トヨタ自動車株式会社様のご意向により「障がい」としています※3 Woven City:静岡県裾野市にある東富士工場跡地に建設する 「コネクティッド・シティ(あらゆるモノやサービスがつながる実証都市)」社長が宣言「SDGsに本気で取り組む」生産現場にも特例子会社の社員「時は命なり」の教え3

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