働く広場2021年1月号
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もあったのではないですか。大塚 そうですね、モノづくりということは、お客さまに届ける商品にたずさわるということですので、もちろん品質も大事になってきます。まずは、「どんな作業内容であれば安定した作業ができるのか」を一緒に考えることから始めました。トライを重ねるなかでトヨタの従業員も「障がいは個性なのだ」と理解し始め、障がいのある人それぞれの得意・不得意がわかってくると、それ以降の受入れは比較的スムーズに進みました。いまは、ほかの生産ラインからも業務の切り出しを進めています。また工場内は、有人・無人の搬送車が走行するなど特殊な条件もあるため安全管理にも力を軽減するために床にやわらかいマットを敷設、女性ラインの作業台や部品シュートの高さ調整機能の追加、妊婦や下肢障がいのある人用の座り作業の切り出しといったものです。女性社員はこの経験を活かし、別のラインで高齢者や女性が働きやすい作業改善を重ね、作業効率も生産性も上がっていったそうです。――社員の状況に合わせた職場改善が生産性に結びつくのは理想的ですね。大塚 これは「トヨタ生産方式」の考え方に通じています。生産系の社員たちから〝おやじ〞と慕われる執行役員の河か合わい満みつるCMO(Chief Monozukuri O cer:最高モノづくり責任者)が、以前「トヨタ生産方式の取組みは、いろいろな効果がある」と話していました。「職場で事故が起きるときは、やりにくい作業がそのままになっていたり、決められた通りにできずスムーズにいっていなかったりする。やりにくいということは時間もかかる。そこを直せば安全になるし、生産性も上がる」と。 よくいわれますが、高齢者や女性、障がいのある人たちが働きやすい環境は、だれにとっても働きやすいはずですよね。下山工場でも「目の前にいる社員が幸せな、充実した時間を過ごせるように」と考えたことが起点でした。これを入れました。周囲のトヨタの従業員も、日ごろから彼・彼女たちへ声かけし、また彼・彼女たちの「笑顔」から元気をもらっています。 実は下山工場の場合は、ほかの工場に先駆け高齢者や女性、妊婦さんたちが働きやすい生産ラインをそれぞれつくっていて、多様なメンバーに対する理解、一緒に働く風土が根づいていたことも大きかったようです。 下山工場で独自の職場環境がつくられたきっかけの一つが、ある女性社員の妊娠でした。当初、担当課長は、彼女の体を案じて生産ラインから外し、事務所内の仕事に切り替えました。しかし、もともと工場では事務所内の業務が限られることもあり、与える業務に思案するなかで、「これが本人や会社にとって本当にいいことなのか」と疑問に思ったそうです。 トヨタ社内には「時は命なり」という言葉があります。「トヨタ中興の祖」と呼ばれる豊とよ田だ英えい二じの「管理職は部下の時間を命だと思い、それを預かっているのだと思え」との教えで、社員にとって価値のある仕事、意味のある時間にするべきだということです。担当課長も「むしろラインで働き続けられる環境を整えるべきではないのか」と、みんなでアイデアを出し合いながら工程改善を重ねていきました。 具体的には、体力負荷の緩和策としてロボット導入や台車の電動アシスト化、からくりを使ってふり向き作業を低減、立ち作業の負荷働く広場 2021.1トヨタループス株式会社の下山工場分室が開設され、組立て作業の準備など「モノづくり事業」がスタートした(写真提供:トヨタ自動車株式会社)「トヨタ生産方式」と「YOUの視点」4

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