働く広場2021年2月号
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働く広場 2021.2※1 きもち日記:https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/education/school/support/kimochinikki/※2 アシストガイド:https://www.softbank.jp/mobile/service/assistguide/ 香川大学教育学部教授、香川大学学生支援センター バリアフリー支援室室長、香川大学教育学部附属坂さかいで出小学校校長・附属幼稚園園長、言語聴覚士、公認心理師。 特別支援学校での進路指導の経験があり、現場をよく知る実践的な研究者。富士通株式会社やソフトバンク株式会社と産学官の共同研究も行っている。坂井 聡 さかい さとしきもち日記 富士道検索アシストガイド ソフトバンク検索21て、現場で使ってもらって、その人たちの意見を聞きながらブラッシュアップされるのである。そして、その道のプロである企業などと共同で、試作品を完成品にしていく。これが、私の研究のプロセスである。実践的な研究ということになるだろう。 実践的な研究をしていくのだから、実際に生活で使ってもらった感想や意見はどうしても必要である。机上でいくら考えても、所詮自分の頭の中から抜け出ることはできない。実際の生活場面では、机上で想定していたこと以上にユニークな使われ方がされることも多いからである。そのためには、現場に足を運んで、使っている人の意見を聞き、使っている人の使い方を観察し、使っている人の立場で考えていく必要がある。「このように使ってください」と指示するものではない。使う人が、自分の生活の質を高めることができるのであれば、その使い方は自由なのである。このようななかから、次なるアイデアを生むための情報を得るのである。現場に行って、一緒に活動することで得られたものからアイデアは生まれてくる。 このように実践的な研究という観点か環境だったり、生活そのものの環境だったりする。私が取り組んでいるこれらの研究の領域は、「支援技術」といわれる領域である。そのため、ICT機器を操作したりプログラムを組んだりする技術が秀でていると思われがちなのであるが、実は私自身は、その道の専門家ではない。私自身は、もっぱらアイデアを出して、それをどのように活用すれば、利用する人たちの生活の質を高めることになるだろうかと考えるのみである。 私のアイデアは、大学の教育学部の技術領域の教員によって試作品となる。私はその試作品を実際に現場に持っていき、使ってもらいながら意見をまとめていく。このように、私のアイデアは試作品を経 新型コロナウイルス感染症の拡大は社会に大きな影響を与えている。新しい環境をどう受け入れていくのかと考えたとき、いまの状況を打破するための鍵となるのは、“アイデア”だと思う。元禄時代の作家、井い原はら西さい鶴かくの言葉といわれている「金がなければ知恵を出せ。知恵がなければ汗を出せ」というものがあるが、この言葉はいまでも通じるものだと感じる。 私は、ICT(情報通信技術)の活用が、特別な支援を必要とする人たちの環境をこれから大きく変えていくであろうと考えている。それは、コミュニケーションのら考えてみると、冒頭で述べた言葉は、私の場合は「知恵あるときは知恵を出せ、知恵なきときは汗を流せ」ということになるのではないかと思う。知恵があれば出せばよいのだが、その知恵がなかなか出てこない。アイデアを生み出すための知恵を得るためには、現場に出てともに汗を流し、アイデアの種を探すということが大切なのである。 これまでも企業などと共同でいろいろなものを形にしてきた。例えば、富士通株式会社と共同で完成させた「きもち日記」(※1)や、ソフトバンクグループ株式会社と共同で完成させた「アシストガイド」(※2)などである。いずれも、現場に足を運んで汗を流して得られたものをアイデアにし、企業と組んで完成させたものである。やはり、プロが完成させると中身も外見も違う。私たちのような実践的研究者ではつくり出せないものである。同じように使うのであれば、おしゃれでかっこいいものを使ってもらいたいと思う。だから企業と組むのは大切な方法である。 どちらも「知恵なきときは汗を流せ」の言葉を実行し、現場で得られた情報からつくったものである。これからも、現場に足を運びながら、知恵を出すことができるように汗を流したいと考えている。*【最終回】あなたはどう思いますか?現場に足を運ぶアイデアを生み出すために

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