働く広場2021年3月号
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働く広場 2021.3てリフレッシュしていた。こうした職場環境は、28年前のプリプレス設立当時から整えられていたそうだ。1999年入社で製造部IT開発担当の係長を務める谷や島じま慶よし彦ひこさん(45歳)も「入社当初から、とても働きやすい職場でした」とふり返る。谷島さんは中学生のころ筋肉の病気であるジストニアと診断された。「日ごろは松葉づえで移動していますが、職場内では動きやすさを実感しています。埼玉県の自宅から車で通勤できるのも助かります」と話す。谷島さんは大学で法学部だったが、卒業後に障害者向けの就職セミナーを受けてプリプレスに入社。翌年から凸版印刷の本社に2年ほど出向し、研修を受けてIT系の担当になった。いまは国語辞典など分厚い印刷物の自動組版システムの開発をしている。「文系の自分には畑違いの仕事でしたが、基礎のスキルをしっかり学ばせてもらえました。また本社の人たちと一緒に働くことで、その後の委託業務などの連携もスムーズにいきました。出向は、とてもよい機会だったと思います」 プリプレスでは知的障害や精神障害のある社員を本格採用するにあたり、凸版印刷の本社に併設する形で「秋葉原分室」をつくった。おもな業務はシュレッダーやスキャニング、郵便物の封入封かん、データ入力、備品補充といったオフィスサポートだ。しかし立ち上げてからしばらくすると、小さなトラブルが起きるなど順調にいかないことも増えたという。一瀬さんは「当時、障害のある社員を支援する指導員たちは、特別な研修などを受けていないながらも親のような気持ちでサポートをしてくれていました。ただ、よかれと思ってかけた言葉が逆効果だったり、必ずしも本人や職場のためになっていなかったりしたこともありました」と明かす。そこでプリプレスは2018年、社会福祉士・精神保健福祉士の堀ほり千ち枝え美みさんを採用。総務課に配属された堀さんは、それまで障害者雇用にかかわってきた経験を活かし、職場の支援体制の強化に力を入れてきた。堀さんが最初に取り組んだのは、在籍する社員一人ひとりの障害特性に関する情報をまとめたフェイスシートづくりだったそうだ。「採用時に本人から申請された内容だけでなく、複合的に重なる特性や病気などもありました。極めて個人的な情報でもあるので、現場サイドとは、実際に必要な合理的配慮のポイントについて共有したり、必要最低限の情報を上司に伝えたりしました」その一方、監督的な立場にある社員に毎週集まってもらい「ラポール研修」を2年間に渡って行った。ラポールとは信頼関係のことを指す。堀さんによると「研修では障害特性について学ぶだけでなく、職場で支援する側が燃え尽き症候群(バーンアウト)にならないよう、お互いに仕事を通じ支え合う関係性の構築を目的としました」という。さらに指導員には、障害者職業生活相談員や企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の資格認定講習なども受けてもらった。一瀬さんは「一定の理解が進んだことで、現場でのコミュニケーションがずいぶん潤滑になったと思います。監督職がみな一緒に学ぶことで、それまで縦割り的だった部署間に横のつながりも生まれ、雰囲気が明るくなりましたね。もちろん、まだ不十分かなと感じる部分もあります。会社としての歴史が長いほど、現場を変えるのも簡単にはいかないと覚悟しています」と率直に話してくれた。 分室は小石川、芝浦、板橋と順調に増え、いまでは計4カ所で指導員5人を含む計27人が従事している。「ふり返り」で自覚と成長分室でオフィスサポート製造部でIT開発を担当する係長の谷島慶彦さん人財開発室室長で社会福祉士・精神保健福祉士の堀千枝美さん辞典などを効率的に制作するための自動組版システムの開発を行っている8

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