働く広場2021年3月号
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会的責任を果たせなくなる」という危機感のもと、ダイバーシティ専門部門を立ち上げ、精神障害のある人の採用という取組みを始めました。 彼らは特性などに偏りがあるといわれますが、高度な能力を活かせる業務があれば、うまくやっていけます。一方では職場環境をしっかり整えないと体調が不安定になったり、二次障害を引き起こしたりすることもあるので、現場ではそこを一番フォローしました。しかも仕事と環境をマッチさせることで、一人ひとりが自立的に成長していく部分もあります。試行錯誤を重ねながら、全体的な底上げを図っていくことができました。 ダイバーシティ専門部門を立ち上げてからの職場定着率は、6年間で88%と高い実績が出ています。やはり効率よくみんなで業務を遂行していくには、能力をしっかり身につけた社員が、就業を継続していくこと、成長してくれることこそが大切です。これは一般の職場と同じですよね。――フラワーアレンジメントなど新しい業務もつぎつぎと増えています。太田 フラワーアレンジメントは、もともとえていた就労移行支援事業を行うNPO法人と連携し、図面を描く業務などを学んでもらい、手応えを得ました。また、特定の業務に特化したことで、障害があってもスキルを活かせる仕事を見い出すことができました。世の中ではサテライトやテレワークという言葉もまだ浸透していないなか、この取組みは2009年にテレワーク推進賞(※2)を受賞しました。 最初の数年は生産性にはつながりませんでしたが、いまでは逆に大きな戦力になっています。デジタル化できない図面のトレース作業を、ほかのグループ会社からも業務受託するようになりました。彼らから発案された、営業社員の似顔絵を描く仕事もありますよ。日ごろからチーム内で自主勉強会を開いて、スキルアップも図っているようです。――2013年に大手不動産流通会社として初のダイバーシティ専門部門を立ち上げ、翌年から通勤型の精神障害のある方の雇用(チャレンジスタッフ)を始めたそうですね。太田 背景には、東急リバブルの成長とともに社員数も増え、法定雇用率達成へのハードルが高くなったことがあります。「これでは社のある人が一緒に働くイメージをなかなか持てなかったのです。当社は売買仲介事業が柱ですから、対面による接客業が基本です。しかも宅地建物取引業というのは専門的な部分も多いので、障害のある人が働く場としては、かなり難易度が高いのではないかと思われていました。 少し脱線しますが、私の次男にも障害があります。知的障害をともなう自閉症です。私からすると彼は働いてもらうのがむずかしいタイプですが、就労も模索していました。障害者に関することについては、世の中はきれいごとだけでは進まないだろうという本音もあります。障害のある人が望む雇用とは何か、企業がどこまで応えられるのか、私なりの思いもあったのですが、具体案までは見い出せていませんでした。 ですから在宅勤務について聞いたときは、「そういうことから始められるのか」と感心しましたね。きっかけはやはり法定雇用率の未達成が続いたことでした。指導に入ったハローワークの人たちと一緒に「どんな仕事なら切り出せるか」を相談するなかで、ちょうど社内でパソコン作業化が進んでいたマップ・図面作成なら在宅でも可能ではないかという話になったそうです。以前から、身体障害のある方にイラストレーター(※1)のスキルを教働く広場 2021.3※1 イラストレーター:Adobe Illustrator。アドビ株式会社が販売する描画ツールソフト※2 テレワーク推進賞:一般社団法人日本テレワーク協会が主催。テレワークの導入・活用または普及支援した全国の企業・団体による先進事例を表彰するものチャレンジスタッフ職場定着率は6年間で88%「会社への貢献を」スタッフも意欲わく3

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