働く広場2021年4月号
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働く広場 2021.4は、用具に書かれた自分の名前を判別することが困難なため、いつの間にか、自分で貼っていたそうだ。キャンパス敷地内で外構の落ち葉を集めていたのは兼かね田だ茂しげ樹きさん(47歳)。10年を超える仕事について「楽しいです」と笑顔で答えてくれた。実は兼田さんは視し野や狭きょう窄さくなどの症状がある進行性の目の病気がある。少し前から兼田さんは、屋内の廊下などで支援員が「ここだよ」と指さしてもわからなかったり、ごみを見落としたりすることが目立つようになっていた。メガネの度数を上げてもらっても状況は変わらなかったため、ケース会議を経て、専門の眼科医に診てもらったところ視野狭窄が判明した。兼田さん本人も自分の目の状態をうまく説明できなかったようだった。谷本さんたちは、眼科医に「トイレットペーパーの芯の穴から見ているような感じです」と説明され初めて納得できたという。特に暗い場所が見えにくいことから、屋外担当に変わってからも、顔を作業場所に正対させてから指示するなどの工夫をしている。さらに障害者就業・生活支援センターにも相談し、この先どういう仕事ならできるのか、あらためて適性調査をしているところだ。福田さんが説明する。「できるかぎり本人のためになる状態にしたい。それは必ずしも当社で働き続けるだけでもないと思います。作業所に戻ることも視野に入れて、エルチャレや支援機関と一緒に、どういう方法なら幸せに働き続けられるかを考えていきます」 最近は、従業員の親が高齢となり、入院したり亡くなったりして生活環境が急に変わってしまうケースも相次いでいる。福田さんは、就業と生活の相互の関係性をみながらやっていくために支援機関との連携は不可欠だと話す。「障害者一人ひとりの尊厳を守るためにも、外部の方にも積極的に介入してもらい、そのなかでどうしていくかを一緒に考え、本人が最善の方法を選べるように整えることが大事だと思います」具体的な対応ケースも紹介してもらった。 ある従業員の父親が倒れて入院したとき、辻さんが入院先に出向いて、本人をグループホームに転居してもらう許可を取った。実はそれまで父親は、唯一の同居家族だった本人と離れることを承諾していなかったという。ほかにも、家族がグループホームをすすめても本人が嫌がるケースがある。「会社側としては、できるだけ生活を見守ってもらえる拠点があってほしいと思うのですが、本人の希望も尊重しながら解決策を模索しています」と辻さんは話す。 グループホームで暮らす従業員が、キャッチセールスのトラブルにあった。あるとき金融機関から会社に、従業員宛で郵便物が届き、おかしいと感じた支援員らが本人と一緒に開封したところ、80万円のローンが組まれていた。すぐにエルチャレとグループホームへ連絡し、弁護士に相談してクーリングオフできた。「日ごろから外部と密に連携しているからこそ、スピーディーに対応できました」と福田さんは教えてくれた。  美交では、障害のある従業員の課題やトラブルの対応を重ねるうちに、職場全体に、予想以上の大きな効果をもたらしたという。福田さんが話す。「課題解決に向けた意見交換が活発になり、社内のコミュニケーションも飛躍的に活性化したのです。一体感や達成感とともに、職場内はだれもが働きやすい支援は生活の場面でもケース2キャッチセールスでトラブル職場内の活性化、さらなる取組みケース1親の入院を機にグループホームへ側溝にたまった落ち葉を拾い集める兼田茂樹さん8

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