に重点を置く(図1)。1年生での実習は教員引率のもと、10人単位で物流、事務、飲食厨房、製造、小売販売、サービスといった6業種の職場すべてを体験する。この取組みは他校に比べて格段に多い。 2年生では、1年生での経験をもとに〝自分の適性を見つける〞ことの理想と現実に向き合い、志向を絞っていく。 そして3年生では、自分の興味・強みを活かし、〝自分の進路を決定する〞という、三つの段階を大切にしている。 実習後は、企業担当者や同行した教員からのフィードバックを基に、生徒自身でのふり返りをていねいに行う。多くの企業での実習を経験しながら、「実習↓ふり返り」のサイクルを回すことで、「何ができるのか」、「何をやりたいのか」、「何が向いているのか」を自分で選択できるようになるという。 生徒の進路決定は、学校任せではなく保護者にも一緒に考えてもらうことが大切だと考え、教員を含めた三者面談にも時間をかけて取り組んでいる。 また、保護者が進路について知る機会を多く提供しながら連携を重視している。例えば、保護者向けに「進路学習プログラム」(図2)と称して、毎年6月に実施する「進路のいろは」では進路指導の流れ、福祉と企業の違いといった基本的な情報を発信し、8月の「夏季進路学習会」では企業担当者・企業で働く卒業生を学校に招き、パネルディスカッション形式で企業就労に関する情報提供を行っている。そのほか、複数の企業の職場見学会も実施しており、企業で働くイメージを持てる機会を提供している。このプログラムは保護者の要望を反映し、毎年内容を充実させている。 「上記の進路学習プログラムに加え、新たな試みとして、小グループでの保護者懇談会も実施しました。進路での疑問点や、職場実習(インターン)での成功体験・失敗談などを保護者同士でざっくばらんに共有してもらいました。学校にとっても、保護者の生の声を聞くことのできる有意義な機会となりました。今後は個別の進路相談などの要望もあり、保護者の新たなニーズにも応えられるよう連携していきたい」と安田先生はいう。 このように、多くの経験を通じ、生徒が「自分で決めた進路」であること、保護者にも就労についてさまざまな情報を提供し、ともに進路を考え決定することにより、卒業後の安定就労につながっているという(図3)。 もう一つ紹介したいのが企業との「パートナーシップ実習」だ。これは通常の職場実習(インターン)とは異なり、より多くの社会経験を積み、生徒の心の成長につなげるとともに、企業側にとっても社員への啓発活動となる活動である。 これは、後述する市川大野高等学園の「デュアルシステム」や、京都府や滋賀県の特別支援学校での取組み事例から学び、実現したという。 このパートナーシップ実習は、2019(令和元)年には「第9回キャリア教育推進連携表彰」(文部科学省・経済産業省共同実施)の優秀賞を受賞した取組みである。多種多様な企業が協力し、企業内の障がい者理解の啓発に寄与している点、また生徒自身が企業での経験を通して働くイメージを持ちやすいといった点が評価された。取材時は、13社1法人とともに取組みを進めているとのことだ。 今回は、「ダウ・ケミカル日本株式会社」(東京都品川区)とのパートナーシップ実習について紹介したい。 同社での実習の初年度は、生徒が学校で学んでいるハンドドリップ技術で淹れたコーヒーと、生徒手づくりのクッキーやケーキを社員向けに提供することからスタートした。 この取組みにより、社員の知的障がいのある方への理解が深まったという手応えを感じ、翌年度にはもっとコミュニケーションを重視しようと、コーヒーなどの提供だけでなく、生徒と社員がゆっくり会話できる環境を整えた。 さらにその翌年度には、なんとオフィス内で授業参観を実施した。保護者は生徒が企業内でコーヒーなどの提供を行うパートナーシップ実習の事例紹介企業とともに歩むパートナーシップ実習働く広場 2021.4(図1~3提供:東京都立港特別支援学校)実習でコーヒーを販売する生徒とその様子を見学する保護者(写真提供:東京都立港特別支援学校)図1 自己選択自己決定を目ざす進路指導図2 進路学習プログラム年間計画図3 生徒と保護者と共に進路を考える22
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