働く広場2021年4月号
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る。買ってもらえる経験、感謝される経験が、一人ひとりの働く意欲にもつながっているという。 「デュアルシステム」とは、地域の企業と連携し、実社会での実務をになう経験を通して、社会的・職業的自立を目ざす取組みである。 授業の一環として、徒歩圏内の職場へ複数名の生徒と教員とで向かい、社員と実際の職場に立つ経験をする。例えば、飲食店では通常の営業時間に店頭に立ち、社員と同じユニフォームを着て接客をするほか、コンビニエンスストアでの品出しや、メール便配達、福祉施設でのベッドメイキングなど、業務は多岐に渡る。現在は18の企業がこの取組みに賛同し、生徒のデュアルシステムでの実習(以下、「デュアル実習」)を受け入れている。企業と学校との関係性も良好で、企業側から「このような業務もやってもらえるのわりと、みなぎる自信を感じた。ここでもわれわれの見学の様子に気づくと、手を止めて挨拶をしてくれた。完成品はきれいにヤスリがかけられ、一寸の狂いもないほど精密な出来栄えだった。 次の見学場所へ行くため、廊下を移動していると、二人の生徒さんが本格的な清掃用具を使って校舎の大きな窓ガラスを清掃していた。メンテナンスサービスコースの生徒さんだ。清掃した窓ガラスがピカピカに変わっていく。生徒さんに話しかけると「まだ上手にできないこともあるけれど、きれいになっていく様子が気持ちいいです」と話してくれた。 学校内はごみ一つ落ちておらず、廊下も教室も床がピカピカであったのは、このメンテナンスサービスの生徒さんたちの清掃によるものが大きいようだ。 9つのコースすべてを見学させていただき、どのコースでも生徒さんに声をかけたが、みなさん気持ちのよい挨拶で迎え入れてくれた。礼儀正しく、自分の行っている作業に誇りを持ちながら取り組んでいることが伝わってきた。 また、生徒が扱っている器具はすべて本格的なものばかり。「社会に出して通用する本物をつくる」という活動を通して、働くことに通じる学びがたくさんあり、「働くために必要な力」を育んでいることがわかった。  文化祭では、自分たちがつくった作品を保護者や地域の方に販売する機会があさんが「こんにちは」と気持ちのよいあいさつで迎えてくれた。隣の教室では、数人の生徒さんが機織り機を器用に動かし、染めた糸から布を織っていた。しばらく見入ってしまうくらい真剣な表情で機織りをする姿があった。「少し聞いてもいいですか」と近づいて声をかけると手を止めまっすぐに私を見てくれた。「機織りはむずかしくないですか」と聞くと「最初はむずかしかったのですが、いまは慣れて得意です」と話してくれた。自分の好きな色の糸で、好きなデザインを選べることも魅力なのだそうで、その表情はとても自信にあふれていた。 次に見学した窯よう業ぎょうコースの教室では、生徒さんが慣れた手つきで電動ろくろを操作し、器をつくっていた。電動ろくろは最初から回せるものではなく、段階的に作業の難易度を上げるなどの工夫をしているそうだ。学年を重ねるごとに習熟し、先輩が後輩に教える場面も見られた。教室の奥には本格的な窯があり、生徒さんが作成した器が所狭しと並んでいた。どの器もお店に並んでいてもおかしくないほどの品物であり、その完成度の高さに驚いた。 続いて、木工コースを見学させていただいた。教室に入ると、電動のこぎりや電動やすりなど、本格的な機械が並び、生徒一人ひとりが分業して作業にあたっている。その姿はみな職人のようだった。一人ひとりに育まれた本物へのこだ地域密着のデュアルシステム働く広場 2021.4実習でつくったパンは、近隣住民向けに販売されている自分たちで染めた糸を使い、機織り機で布を織っていくデュアル実習のふり返り表(提供:市川大野高等学園)24

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