働く広場2021年4月号
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働く広場 2021.4 私は、当事務所のある千代田区や近隣複数区の障害者就労支援センターの法律顧問(アドバイザー)を務めています。その関係で、企業で働いている障害のある人やそのご家族からのご相談も多数お受けしています。特に多いご相談の一つが、「多重債務(借金)」についてです。ご家族からは、障害のあるわが子の将来を心配して、「親なきあと」や成年後見制度に関するご相談も多く寄せられます。 そうしたなかで強く感じるのは、「家計の把握がきちんとできていない」方が多いということです。多重債務の原因の多くは、支出を適切にコントロールできずに、収入以上にお金を使ってしまい、不足分を借金で穴埋めせざるを得なくなったことが発端です。「親なきあと」を心配する親御さんも、お金をどうやって残すかには関心があっても、自分の老後の収支や、わが子の収支について正確に把握していないことが多いようです。例えば、「先月の食費はいくらくらいでしたか?」、「毎月、自宅の光熱費はいくらかかっていますか?」といった質問に即答できる人はほとんどいません。 特に知的障害や精神障害のある人のなかには、家計管理を苦手とする人が多いようです。さらに、キャッシュレスがあたり前の時代になってきて、昔に比べて、ますます支出を把握しコントロールすることがむずかしい環境になっています。 そこで、家計管理が苦手な障害のある人でも、家計を適切に把握できるようになるためのポイントを、3点に絞って解説します。①「家計簿」にこだわらず、やれるところから 家計管理というと、真っ先に「家計簿をきちんとつけなければ」と考える人が多いと思います。実はこれが落とし穴です。特に多重債務で相談に来られた方には、家計簿を習慣的につけているかを確認して、していなければ、試しに家計簿をつけてみるようにお願いすることがあります。 しかし、例えば、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の傾向のある人などは、家計簿をつけること自体を忘れてしまう、レシートを紛失するなどして支出が確認できなくなってしまう、不必要に多数のクレジットカードや銀行口座を持っていて把握するのがたいへんなど、家計簿をつけることに挫折しがちなようです。 他方、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向のある人は、いざ家計簿をつけようとすると、「これは食費?交際費?娯楽費?」など、細かい費目が気になってしまい、完璧に家計簿をつけようとして挫折してしまいがちです。また、きっちり予算を立てようと張り切ってしまい、突然の臨時支出(例えば、友人の冠婚葬祭費など)でパニックになったり、高い節約目標を掲げすぎてやる気を失ってしまったりする傾向があるようです。 もちろん、診断を受けている人の全員がこういう特徴があるというものではなく、あくまで「傾向がある」というに過ぎませんが、自分の得意・不得意を理解することは重要です。 家計簿をつけることに苦手意識がある人は、例えば、まずは、買い物を極力現金だけでするようにして、毎日寝る前に財布の残金だけをチェックしてノートに書いたり、レシートだけ保管するなど、やれるところから始めてみることをおすすめします。 逆に、クレジットカードや、○○payなどのスマートフォンの決済アプリをよく使う「キャッシュレス派」の人にとっては、手書きの家計簿で管理するのは至難の業でしょう。家計簿アプリを導入して、クレジットカードや決済アプリと連動させて、自動で家計簿をつくれるようにするのがベストでしょう。最近は優れた家計簿アプリが多数出ていて、クレジットカードや銀行口座との連携機能も充実しているものが多いです。最初の設定はやや面家計管理の苦手な人が多い家計の把握、 できていますか?弁護士法人ソーシャルワーカーズ代表弁護士・社会福祉士浦﨑寛泰2

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