働く広場2021年5月号
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働く広場 2021.5――西さんが考案した﹁ぷれジョブR﹂活動は2003(平成15)年に岡山県倉敷市でスタートし、いまでは全国各地に広がっています。内容についてあらためて教えてください。 「ぷれジョブR」は、さまざまな障害のある小学校5年生~高校3年生ぐらいまでの子どもたちが、週1回1時間、自分の住む地域で、ボランティアのジョブサポーターとともに仕事体験をする活動です。1カ所の職場で半年間続けた後、また別の職場で半年間と、最長8年間で16カ所の職場の仕事を体験できます。ジョブサポーターは一般の地域住民のみなさんで、私が倉敷市で始めたときは夜間補導員のボランティアの方たちに声をかけました。 受入れ先の職場では「きちんと挨拶ができるようになる」、「なにかを身につけさせる」といった目標設定などは一切ありません。じつは、たまに誤解されるのですが、「ぷれジョブR」は就労支援事業ではありません。私たちの活動の目的は、障害のある人とそうでない人が分断されることなく、お互いに顔見知りの関係で助け合えるような新しい関係づくりです。そして子どもたちにとっては、入り口は仕事体験なのですが、学校や家庭以外の社会のなかの"居場所づくり"なのです。一生懸命に自分の運命を背負ってがんばっている子がいるということを、地域の人たちに知ってもらうこと。また、障害のある子どもとの交流を通じて、大人側は失ったものに気づかされること。この「対等な相互承認」によって、自然に、みんなで共存していけるようになること。それが「ぷれジョブR」の理念です。 障害のある子どもたちを施設などで療育する「予防」ではなく、就労に向けた訓練のための「準備」でもなく、大人も含めてだれもがわけへだてなく参加できる「遊び」の場を、地域のなかに地域の人たちと一緒につくりたいと思っています。――子どもたちの活動の中心が、﹁仕事﹂というのも興味深いですね。 「ぷれジョブR」という呼び名には、仕事体験のほかに、「純粋な」という意味の英語「pure」も込めています。いわゆるお金を生み出す働きという狭きょう義ぎの仕事のほかに、「人にものを考えさせる」という内的生産性をもった仕事もあると考えているからです。 私が、この活動を始めるきっかけとなったのは、20数年前に特別支援学校に赴任したときに出会った、ともかちゃんという少女の存在でした。彼女は生まれたときから呼吸以外ほぼ自ら体を動かすことができず、学校の隣にあった重症心身障害児療育病棟から出たこともありませんでした。言葉を発せず、目は24時間開けたままの彼女でしたが、私がそばに来たのを感じると、大きな呼吸をして迎えてくれました。彼女の全身全霊の表現が、部屋のなかの空気を震わせな居場所としての企業 ~子どもが遊んで育つ場所~一般社団法人ぷれジョブ 代表理事西 幸代さんにし さちよ 1961(昭和36)年、岡山県生まれ。1983年、岡山大学で中学校教諭免許取得。2009(平成21)年、岡山大学大学院で教育学研究科修士号取得。 特別支援学校の教諭だった2003年に「ぷれジョブ®」を考案し、倉敷市立福田中学校での活動を皮切りに全国へと広める。2012年に「全国ぷれジョブ連絡協議会」を設立。2019(令和元)年には「一般社団法人ぷれジョブ」に移行し、代表理事を務める。https://www.purejob.net/﹁ぷれジョブ®﹂のねがいともかちゃんとの出会い2

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