働く広場2021年5月号
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働く広場 2021.5がら波動のように伝わってきたのをいまでも覚えています。それから亡くなるまでの1年半、「息を交わすコミュニケーション」を続けました。 彼女の、与えられた命のかたちを、あるがまま引き受けて懸命に生きる姿に、私は「個の尊厳」について思いを深く巡らせました。あとになって気づいたのですが、彼女は私に「幸せに生きるとはどういうことか?」と考えさせるジョブをしていました。この大切な体験が「ぷれジョブR」への原動力になっています。実際これまで、活動にかかわる人たちに「考えさせるジョブ」をした子どもたちがたくさんいます。 ――この活動は、地域や企業でどのように受けとめられたのでしょうか。 企業の人たちには、1週間のうちの1時間、「子どもたちとどんなことをしようかな」などと考えてもらいます。一緒に過ごすというプロセス自体がゴールなので、評価もありません。子どもたちにかかわる大人が集まる月1回の定例会は、茶飲み会のような交流です。ジョブサポーターも企業の人も、かしこまらずに参加してくれることが大事です。 そんなゆるやかな活動を終えて企業の方に話を聞くと、一緒に作業しながら子どもが発した言葉に「ハッとさせられた」と明かした人や、半年間での予想外の成長ぶりに、障害というものについて「自分はまだ一部しか知らないことに気づかされた」とふり返る人もいます。社員のみなさんの気持ちが変わるなかで、「じつは私にも同じような障害のある家族がいます」とか「悩んでいる友人に教えてあげたい」という話も聞きました。 子どもたちが通う学校の先生たちからは、「実習などでは見せない輝くような表情を見た」といった驚きの声がよく上がってきます。「ぷれジョブR」が、自分の意思を出せる自由度の高い遊びの場、道草の場になっているのだろうと思います。 なにより子どもたちは、多くの職場でいろんな人とかかわることで、知り合いが増え続けます。こうして「他人を信じられる」ことを確認していけると、将来どこかでなにかによって傷ついても「こんなことばかりじゃないよね」と思えるレジリエンス(回復力)も知らぬ間に育ちます。保護者にとっても、ゆるく頼れるご近所さんが増えて、少しずつ地域社会に手渡しながら「子離れ」していく準備になります。 このようにして地域の人たちと、ゆるやかに長く続くつながりを得ることで、子どもたちが大人になったときにも、いろんな暮らし方(住み方・働き方・遊び方)を選べるようになります。――2019(令和元)年に連絡協議会を一般社団法人に移行させ、新しい動きも出ているそうですね。 これまで27都道府県で組織ができ、それぞれ自由に活動してもらっていましたので、いつの間にか消滅していたり、趣旨が変わってしまったりしたようなところもあります。活動のあり方に正解はありませんから、基本的にはそれぞれ試行錯誤をしていくのがよいと思っています。ただ基本理念だけは理解しておいていただきたく、一般社団法人として「ぷれジョブR」の理念をあらためて説明し、個人の意見が反映できる「賛同者個人登録」という形で手続きを進めています。 同時に、組織のない地域で、企業と子どもたちの直接的なマッチングも始めました。先日は、東京の代だい官かん山やまにあるアパレル企業から「やってみたい」と申し出を受けました。ちょうどその近隣に住む、恐竜の絵を描くのが好きな男の子が応募してくれました。ジョブサポーターはその企業の社員が担当し、交代しながら送迎などをしてくれています。 これまでは、組織が大きくなるほど決断するまでのハードルが高くなり、動きづらい点がありました。これからは、企業に直接手をあげてもらい、身軽に柔軟に活動していける新しい道筋もつくっていきたいと考えています。 今回、この記事を読んでいただき、受入れ企業として「一度説明を聞いてみたい」という方、受入れはできないが「運営経費の応援はできるよ」という方、「ホームページ作成の手伝いはできるよ」という方など、多くのみなさまにご参加いただけますと幸いです。居場所としての企業企業と直接マッチングも3

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