働く広場2021年5月号
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働く広場 2021.5た当初、職場内で「なにかできることはないですか」とよびかけるなど、焦っていた。ところが、ある社員から「自分たちのほうが仕事に慣れているので、まずは黙って見ていてください」といわれ、気づかされたという。同じ部署内にさまざまな障がいのある社員が混在していることも大きな特徴だ。「職場では、互いの得意不得意を補い合い、助け合って仕事をしていくことをモットーにしています。管理職にも障がいのある方が就いています。当事者だからこそ理解できる悩みや苦しみもありますし、経験者だからこそ説得力のある乗り越え方・対処法を示すこともできます。こうした経験や強みを十二分に発揮できるような職場づくりも、企業の重要な役割だと思います」また、避難訓練にも力を入れており、実際にこんな効果もあった。「東日本大震災のときは、障がいの異なる社員同士がペアを組み、近くの小学校へ避難することができました。最初はおびえていた社員たちも、避難所に来た近所の方々への支援をするうちに落ち着いてきました。支援される立場から支援する立場になったことも、社員の自信につながったのだと思います」社内では助け合うことによる相乗効果もあらわれている。身体障がいのある人が同僚をサポートするうちに運動能力が少しずつ上がり、知的障がいのある人は手伝いをしながら業務能力が、発達障がいのある人はコミュニケーション能力がそれぞれ上がり、精神障がいのある人は「夜よく眠れるようになった」、「服用する薬が減った」というケースも聞かれる。 富士ソフト企画に20年勤めるベテラン社員に話を聞いた。2001年入社の臼うす木き亮りょう太たさん(42歳)は、幼少期に、指定難病の網膜色素変性症と診断された。医師の助言で身体障害者手帳を取得し、神奈川障害者職業能力開発校を経て、富士ソフト企画に入社したそうだ。趣味のパソコンの腕を活かし、最初はシステム管理やパソコンサポート業務を担当。さらに総務系の管理業務も経験し、2019年から業務統括グループ横浜オフィス課長代理を務めている。視力については、いまのところ大きな支障はない。「たまにどこかにぶつかっても、気にしないでねといってあるぐらいです」と笑って話す。早いうちからチームリーダーなどを任されてきたが、部下が増えるにしたがって、一人ひとりへの接し方を模索してきたと明かす。「例えば1人に注意したとき、近くにいたほかの部下も一緒に萎縮してしまうことがありました。さまざまな特性のある同僚がいるので、より慎重な対応が求められるようになっていると思います」一方で、顧客側から求められるレベルは高くなっているという。「以前は、障がい者雇用の場だからと守られていた部分もあった気がします。いまは純粋に業務内容を判断してもらっているので、私たちも力が入ります」と気を引き締める。今後の目標についてたずねたところ、直属の上司にあたる課長さんを引き合いに出した。入社時は精神疾患のため障害者手帳を持っていたものの、その後に手帳を返上し、「就労が障がいを軽減させた」ことを、課長さんは自ら証明したのだという。「上司のように、ここで働くことで障がいや病気を軽減させたり、能力を開花させたりする同僚がもっと増えてほしいですね。私自身は目を改善することはできませんが、同僚を少しでも支える役割を果たしていけたらと思っています」 富士ソフト企画は2005年から、国からの「障害者委託訓練」として精神障がいのある人のための就労支援プログラムを神奈川県や東京都内で展開している。期間は原則3カ月(平日)で、各種ビジ障がいのある同僚を支えたい国からの障害者委託訓練事業業務統括グループ横浜オフィス課長代理として同僚を支える臼木亮太さん企画開発部採用チームの高橋綾子さんパソコンでの業務も多いが、支援機器を用いずに対応できている6

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