働く広場2021年6月号
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上させて、平均2年3カ月の利用で就労している。大学卒の利用者の多くは最初から就労移行支援に入り、平均1年半後に就労している。利用者の67%は就労経験がなく、高校卒38%、大学卒25%、短大・専門学校卒20%。支援学校卒15%と続く。 小お郷ごう竜たつ宙ひろさんは24歳。通信制高校卒業後スピカに通所し、1年半パン工房スピカで訓練したあと洋服販売会社へ就職。現在、スーパーの洋服売り場で接客を担当している。就労後はスピカによる就労定着支援を受けている。 「仕事はきついこともありましたが、慣れました。マイカー通勤で、ときにはパン工房に寄って、お世話になった指導員とコーヒーを飲んでいます」と笑顔で話す。彼を支援した精神保健福祉士の古こ本もと晃こう平へいさんは「初めて来たときは父親の陰に隠れるようにいて会話も苦手でした。パンづくりに慣れてきたころ、販売をやってみたらとすすめたら、コツをつかんだのか、はまっていきました」という。 「発達障害のある人の就労へ向けたライフステージ支援では、一貫性と適切性が求められます。その基本は、専門性の高いケースワーク機能と良好なメンタルヘルスの維持です」と中島さんはいう。 個人の特性に合わせ個別に対応するため、スピカでは、公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士、ジョブコーチ、保育応力を高めるという、もう一つの重要な目的もあるので、必ず保護者参観を実施し、家庭療育の宿題を出すなど、その仕組みを県内の市町村と契約した地域療育として展開。その間、旭川児童院院長代理、自閉症幼児通所施設「バンビの家」所長、おかやま発達障害者支援センター長、地域療育センター所長などを歴任した。 中島さんは、24年におよぶ旭川荘での発達障害支援をさらに進化させようと2006(平成18)年、「まな星クリニック」を開業した。軽度発達障害、行動障害、心の問題のある子どもたちとその家族の支援が始まった。子どもたちが20代から30代になり、幼児期から青年期まで切れ目のない支援をするには就労支援が欠かせないため、2015年に自立訓練と就労移行支援の「多機能型事業所スピカ」を開所した。 「自立訓練も就労移行支援も、青年期バージョンの療育プログラムです。仕事は就労先が教えてくれるので、就労の前段階を整えることが大切です」と中島さんはいう。 困ったときに相談するなどのコミュニケーションスキル、時間、衛生面、お金の扱い方など生活管理のためのソフトスキルの向上を目ざして、一人ひとりの目標を設定する。朝は定時に起きて生活リズムを整える。出勤時間に合わせて準備する。その日に必要な物品や服装を用意する。遅刻や欠席をする場合には自分で連絡する。訓練時間を4時間、6時間、8時間に延ばしていく。休憩時間は一人でリラックスして過ごせるスペースを確保。同僚と雑談してもしなくてもよい。こうして、自己管理能力、感情調整力、コミュニケーション力が向上していくそうだ。 「講義形式ではなく、パン作業などの実際の就労場面のなかで、自分の強みや弱みにあらためて向き合い、スタッフはその解決法をタイムリーに助言します。解決のための具体的なスキルを獲得する経過のなかで会話、役割分担、協調性などが身につき、肯定的な自己理解が進んでいきます。そして、苦手なことや支援を要することなどを含んだ本人自身による『(自分の)取扱説明書』を意識し、スタッフと『取扱説明書』をつくりあげていきます」と中島さん。 一緒に働く職業指導員が設定した目標をクリアしたと確認すれば、ステップアップして本人に向いた仕事の選定、就労先企業の選定、実習へと進む。 スピカの6年間をまとめると、利用者の総数は現在利用中の人を含めて81人、そのうち一般就労したのは36人。金融機関、鉄道会社などの事務職や商品管理、清掃などの業務についている。最長4年のコースを設定しているが、特別支援学校・高校卒の利用者は自立訓練から入り、その後就労移行支援で作業能力を向働く広場 2021.6クリニックには、児童発達支援センターも併設されているスピカの就労定着支援を受ける小郷竜宙さん精神保健福祉士の古本晃平さん22

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