置などをはじめ、食品工業の「命」でもある床・排水面の改善も進める。 「親会社から仕事を受託するだけでなく、商品を売りたいです」と斎藤さんの夢は広がる。栗田さんも、「いずれは水耕栽培業務も取り入れて障害のある人の働く場をさらに拡大したいです」と熱く語る。現在の仕事の切り出しを超えて新たな仕事の創出である。きっと地域に障害者雇用・就労の大きな花を咲かせるに違いない。 須田さんと今回の取材をふり返る。「障害者雇用を進めるためには、畑を開墾することが必要であり、そのうえで種を撒き、水をやる。ときに自然災害にやられることもあるが、その過程を当事者も支援者もともにすることが鍵だと思いました。たしかにたいへんなことも多いかもしれません。でも、一緒に汗をかきながら、その機会を放棄することなく向き合う必要性を実感しました」 須田さんの抱いた思いは、そのまま障害のある人とともに働き合うこと、そのための地域を育てていくことへの展望につながっている。そして「あらためて障害者就労支援の仕事の魅力を再認識しました。これからの求職活動の支柱にしていくつもりです」と語ってくれた。 地域を耕す就労支援が、一人の当事者の心をも揺さぶった。障害者雇用に先行する企業でも研修を受けるなどの積み重ねで、同社の障害者雇用の牽引力そのものとなっている斎藤さん。もちろん、仕事をするうえでの対応においては厳しい評価も欠かさない。食品製造業だけに「衛生観念の理解と行動」は絶対条件だ。障害特性を理解しつつ、このハードルと加齢にともなう体力低下に向き合っている。 斎藤さんの案内で、工場内の物流コンテナの洗浄部門へ。洗浄・乾燥は機械で行われるが、投入と搬出を障害のある社員がになう。背丈以上の高さのあるコンテナの積み上げ、たしかに体力を要する仕事である。障害のある社員は、工場を動かす欠くことのできない存在。汗をかき合い、働き合う関係性。「親会社では、そこまでの向き合い方は実現できませんでした」と栗田さん。そして、越谷市障害者就労支援センターの登録者の社員もいる。特別支援学校、就労移行支援事業所との連携、生活への介入のむずかしさを理解しつつ、関係機関・関係者との連携によって課題解決を図る斎藤さん。この職場もまた、地域のなかで人を育てるフィールドだ。 クリタエイムデリカとスマートFunは、2022年に食品工業団地に移転し、社名も「デリモ」に変更する。エレベータ、オストメイト対応のトイレの設取締役の栗くり田た美み和わ子こさんは、「設立のきっかけはパラスポーツでした」と述懐。会社の名刺のほか、活動される東京中小企業家同友会で構成し、副会長を務める「パラスポーツ応援プロジェクト」のカラフルなもう一枚の名刺もいただいた。食品製造業はいくらでも仕事はある。よりよい職場環境を目ざし、埼玉県内では26番目の特例子会社をクリタエイムデリカと同じ敷地内に設置した。 親会社からの委託業務は社内洗浄業務、物流コンテナ洗浄、社内バッカン洗浄、工場内環境整備業務などである。従業員各自の特性に合わせて、仕事の切り出し、作業の洗い出しを図るのが特徴。会社名の「スマート」は、だれもが共生する社会(会社)になり、「Fun」は働く人たちと業務を委託する親会社との双方が笑顔になり、それぞれの従業員の幸せになるという思いが込められている。社名を説明するにあたり、栗田さんの笑顔がさらにほころんだ気がした。 現在、知的障害のある従業員が5人、障害のない従業員が2人。雇用管理の中核をなすのが主任の斎さい藤とう今きょう日子こさん。特例子会社の前は教育部門を担当。当時は障害のある人の力を十分には認識しておらず、ポジティブなイメージが描けなかったと率直にふり返る。しかしながら、「知的障害のある社員は、斎藤さんの笑顔を見極め、必ず力を発揮してくれるはず」との栗田さんの見立ては的中した。企業在籍型の職場適応援助者の資格を取り、工場移転にともなう新たな障害者雇用の夢取材を終えて働く広場 2021.7株式会社クリタエイムデリカ代表取締役社長、株式会社スマートFun代表取締役の栗田美和子さん主任の斎藤今日子さん工場内や物流で使用されるコンテナの洗浄作業25
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