働く広場 2021.7 学習カリキュラムの効果測定について、客観的指標として日本版リバーミード行動記憶検査を、主観的指標として記憶の補完手段の利用状況等を把握するアンケート調査を受講者に対して実施しました。測定結果について、日本版リバーミード行動記憶検査では、学習カリキュラムの受講前後において検査得点の差は見られませんでした。一方、アンケート調査では、補完手段の利用頻度、使いやすさおよび効果に対する認識が受講者のなかで向上し、また、記憶障害に対する自己認識についても自己評価や理解度の向上が見られました。「スマートフォンを記憶の道具として使用したい」、「自分に合った方法でリマインダーを活用したい。名前を覚えるのが苦手なので関連づけで覚えるようにしたい」、「物を落としてしまうことがあったが、対処がわかった」といった感想があり、学習カリキュラムの多くの情報のなかから、受講者それぞれが自分に合った効用を実感した様子がうかがえました。また、実際の日常生活のなかでも、手帳などの紙媒体の外的補助具しか使っていなかった受講者が、スマートフォンの使用に新たに取り組む、補完手段として写真を使ってみるといった様子が見られました。カリキュラムに対する満足度も高く、すべての受講者が「このカリキュラムは記憶の向上に役立っている」と答えました。 今回の試行実施を通じて、学習カリキュラムには補完手段の活用や記憶障害に対する自己理のグループワークとして実施しました。②支援者 各セッションは、進行役、板書役、個別のサポート役の3人で進行しました。③頻度・時間 試行実施では、週1回、全6セッションを6週間連続で実施しました。また、グループワークで行うセッションのほかに個別相談を週1回行い、セッションのふり返りや不明点の確認、学んだ補完手段の活用方法などについて相談しました。 1回120分のセッションのうち、半ばほどに休憩を取り(5〜10分程度)、そのほかに緊張をほぐして集中力を維持するために1〜2回ほど軽いストレッチの時間を設けました。④セッションの教材 セッションごとにパワーポイントで作成した教材のスライドを上映し、受講者にはスライドを印刷した資料を配付しました。図2は教材の一部例です。なお、実践報告書の巻末にはカリキュラムで使用する教材を収録した記録メディアを添付しています。解を促進する効果があるとうかがえました。「講義」にあわせ「練習」や「宿題」といった訓練場面内外の実体験により補完手段の有効性を確認できること、また、多様なメニューがあるなかで自分が行いやすい補完手段等を選べる構成が有効であったと考えられます。また、小集団形式で実施することにより、当事者同士の意見交換のなかで動機づけが高まったり、ほかの受講者が補完手段を具体的に活用する場面を見る観察学習ができたことも効果を生む要因となったようです。ただし、客観的指標である神経心理学的検査においては記憶機能の明確な変化はなく、また、試行事例は小規模であり、確認された効果が長期にわたって維持されるかどうかについても、今後のさらなる検証が必要です。そのほか、この学習カリキュラムは1回120分のセッションが6回にわたり、情報量も多く、受講者や支援者にとって実施の負荷が比較的高いものとなっています。職業センターではカリキュラムの構成要素のモジュール化を行っており、試行実施後の実践のなかでは1回のセッションを二つに分けるなど柔軟に運営を変更しています。セッションを小分けにして実施する、必要なモジュールをピックアップして実施する、練習や宿題の内容を変更するなど、受講者や支援機関の状況、活用目的などにより適宜アレンジして活用を検討いただければ幸いです。 実践報告書№38「記憶障害に対する学習カリキュラムの紹介」は、障害者職業総合センター研究部門のホームページに掲載しています(★1)。また、冊子の配付を希望される場合は、下記にご連絡ください(★2)。★1 「実践報告書№38」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice38.html よりダウンロードできます。また、今号の14ページでも紹介しています★2 障害者職業総合センター 職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/center.html●学習カリキュラムの効果●まとめと課題図2 教材の一部(例)29
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