働く広場 2021.7――株式会社ヘラルボニーは、知的障害のある作家によるアート作品を広める事業で注目を浴びていますね。 ありがとうございます。2019(平成31)年3月に始めた「全日本仮囲いアートミュージアム」はこれまで30カ所以上で実施されています。作品をデザインに落とし込んだ服飾品などを扱うブランド「HヘラルボニーERALBONY」も、国内に常設1店・期間限定4店を展開し、オンラインサイトでは世界125カ国から購入できるようになりました。企業や自治体とのさまざまなコラボレーション事業も実現しています。――会社を設立するまでの経緯を教えてください。 きっかけは僕が2017年に休暇で岩手県に帰省中、母に誘われ花巻市にある「るんびにい美術館」を訪れたことです。衝撃でした。わが家には4歳上の自閉症の兄・翔しょう太たがいて、僕と双子の兄・文ふみ登とは幼少期から障害のある人たちとも交流してきましたが、こんなアール・ブリュット(※)の世界があるとは知りませんでした。一方で、日本ではまだアール・ブリュットは福祉領域にとどまっていると知り、すぐに「何かしたい」と文登を電話で誘ったら「いいよ」と、返事をもらいました。そして、2人で貯金の100万円を準備し、友人にも声をかけてアール・ブリュットをテーマにした「お楽しみプロジェクト」を計画しました。「売れなくてもいいから、いいものをつくろう」とみんなで話し合い、るんびにい美術館の障害のある作家の作品を用いた、シルク織りのネクタイをつくることにしました。 るんびにい美術館とのコラボレーションが決まったものの、実際につくってくれるところを見つけるのに苦労しましたね。「色が多すぎてむずかしい」、「コストが見合わない」などと次々に断られるなか、ある方が教えてくれたのが銀座の老舗洋品店「田屋」です。山形県の工房を見学し、銀座本店に企画書を持ち込んだところ、僕らの思いを汲んで快諾してくれました。ちなみに創業110年以上で初めて他社向けに織物を卸したそうです。作品の凹凸まで見事に表現されたネクタイの初期生産は、4種類120本。値段は1本、2万4千円超です。宣伝用にミュージックビデオを自主制作して配信し、メディアやSNSでも紹介され、無事完売できました。このアートネクタイは、いまも看板商品です。 プロジェクトの成功を機に、兄弟で会社を設立しました。社名の「ヘラルボニー」は、翔太が7歳のころ、何気なく自由帳に記した言葉です。言葉の響きなのか字じ面づらなのか、心に引っかかるものがあったのでしょう。そんな“一見意味がないと思われるもの”を価値として創出したいという思いも込めました。※アール・ブリュット(Art Brut):既存の美術などとは無縁の文脈によって制作された芸術作品をさす。 フランス語で「加工されていない芸術」という意味が語源。英語では「アウトサイダー・アート」ともいわれる知的障害のイメージを変えたい株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長松田崇弥さんまつだ たかや 1991(平成3)年、岩手県生まれ。2014年、東北芸術工科大学卒業。小山薫堂さんが率いる企画会社「株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ」のプランナーを経て独立。2018年、「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット「株式会社ヘラルボニー」を双子の兄・文登さんとともに設立、クリエイティブを統括している。2019年、日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。2021(令和3)年、内閣府「第3回日本オープンイノベーション」で環境大臣賞を受賞。「全日本仮囲いアートミュージアム」アール・ブリュットを知って2
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