働く広場2021年9月号
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働く広場 2021.9化することで、本人の強みや伸びしろを把握し、適切な配慮提供へつなげられるようになり、ともに働くことや成長支援についてのノウハウやスキル獲得など、専用ツールが職場における教育機能をになった成果であると考えています。 私はPJを通じて、障害の有無によらず、人は仕事を通じた有意味な経験のなかで必ず成長するという確信を持つことができました。だからこそ、障害のある人が社会的要請により「雇用される人」ではなく、「ビジョンを共有したメンバー」として組織のなかで成長し、存在感を発揮できるように、今後も事業活動を続け、「共生社会」の実現に向けた具体的な解を協働する方々との対話から探求し、ともに創りあげていきたいと思います。阿部潤子(あべ じゅんこ) 「株式会社Connecting Point」 代表取締役。社会福祉士、精神保健福祉士。 日本女子大学人間社会学部卒業後、王立メルボルン工科大学(現RMIT大学)大学院にて「共生社会」に必要な社会政策の立案プロセスを研究し、2009(平成21)年修士号(Master of Social Science)取得。帰国後、就労系障害福祉サービスを提供する株式会社ソーシャル・スパイス・カンパニーにて就労支援員を務めた後、取締役社長就任。退任後、2015年に「株式会社Connecting Point」を設立、代表取締役に就任。 障害者雇用に関する研修・コンサルティングサービスを企業向けに提供するほか、都内区立中学校の特別支援学級や都立特別支援学校職能開発科・普通科にて、障害のある学生を対象としたキャリア教育について先生方とともに思考を重ねる活動をしている。を開発し、「働く力」の見える化による「『成長プラン』設計ワークショップ」を、企業の人事担当者や職場サポーター向けの研修としてご提供しています。 このワークショップは、「働く力」の可視化による選別的なアセスメントを意図するものではなく、専用ツールを用いて、障害のある社員の「現在地」と「目的地」、そして「目的地」に至るまでの「成長プラン」を上司(職場サポーターなど)と部下(障害のある社員)がともに創りあげるストーリーとなっており、このストーリーで重視するのが、二種類の「対話」です。 まず一つめが、上司と部下によるリアルタイムで行われる「対話」です。本ワークショップでは、目標管理制度のもとに行われる「面談」ではなく、上司自らが障害のある社員をより深く理解し、部下の成長を願い、そのプロセスに伴走しながら安心感と納得感を生み出す日々の「対話」を重視しています。前述の調査においても、職場の人間関係が社員の離職意図に影響を与え、仕事の満足度にも関係していることが明らかになったことから(※)、本ワークショップでは上司と部下の関係構築はもちろん、「成長プラン」に対する本人のワクワク感と上司の期待に応えたいという内的な動機づけも、部下の成長に不可欠な要素と考えています。 二つめが、上司間の「対話」です。仕事を通じた人の成長は目に見えにくく、成長に対する「見立て」も見立てる側の価値観や経験によって一人ひとり異なります。この正解のない世界観が、人の成長を支援することのおもしろさである一方、障害のある人の可能性を最大化し、個の力を活かすためには、その見えにくさが「障害」になりやすいと考えます。そこで、専用ツールを用いながら、上司同士が一人ひとりの社員に対する「見立て」とその意味づけを共有することで、社員の「現在地」に対する認識と成長支援の一貫性を担保することが可能になります。この対話機会こそが、上司間の相互理解を深めるプロセスになるとともに、職場の「力」を組織全体で把握することにつながるのです。 本ワークショップの開発段階からご一緒した方々からは、上司など障害のない社員間の目線合わせが可能になるだけでなく、専用ツールによって、知的・発達障害のある人と健常者と呼ばれる人たちの違いを一つのグラデーションのなかで感じることができ、社員の困り感や日常業務の背景にある本人の努力をあらためて知る機会になったという声をいただいています。まさに目に見えにくく、見立てが分かれやすい「認知機能」という能力要素を可視人は必ず成長する※参考文献:阿部潤子「個の活躍を実現する障害者雇用の新たな手法―障害のある人の『成長ステップ』見える化プロジェクト-」,経営センサー,2020,225, P.32-37.3

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