「働く広場」2021年10月号
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働く広場 2021.10方にとっての採用の選択肢をいかに広げるか」です。1人でも多く、できるだけ多くの企業と面接する機会をつくりました。まずは地域のなかで明朗塾の認知度を上げて、企業や特別支援学校との信頼関係をつくることから始めました。障害者雇用についての情報や明朗塾の活動を広報紙にして企業の人事担当者に配ったりするほか、企業方針などを知る機会をつくってニーズの把握に努めました。 しかし、就職後、職場でトラブルを起こしてしまうケースもあります。そういうときに職員は、トラブルを起こした本人を守ろうと力を尽くすのですが、同時に、トラブルに対応した企業へのフォローも大事だと私は話してきました。私たちにとっては企業も大事な顧客ととらえる視点が必要ではないかと思います。支援担当者が企業に信頼されることで、次の就職にもつながります。――初めて障害者雇用をする企業にも積極的に働きかけているそうですね。 地元地域に多い中小企業は、どのように障害者雇用をしたらよいか方針が定まらないままに、求人票を用意せざるを得ないことがあります。職種欄に事務補助とあれば、知的障害のある方にはむずかしい場合もあるかもしれませんが、それでも面接していただきます。すると、ある企業では「高齢になった倉庫担当者を重労働の少ない事務に移ってもらって、今回面接した若い体力のある障害者を、倉庫作業員として採用してみよう」と気づいてくれることがあるのです。 雇用がうまくいったら、今度はその企業の方を講師に呼び、まだ障害者を雇用したことのない中小企業の方や、施設利用顧客のご家族の方たちに、好事例として話してもらいます。こうした機会は、話を聞いた側に一歩をふみ出す勇気を与えるだけでなく、話した企業にとっても自信になり、さらなる雇用推進への後押しになると思っています。 いわゆる保護者会として「お客様感謝デー」を年4回開催していますが、そのうち1回は大きなホテルでの就職祝賀会です。企業やご家族の前で、施設卒業生を勤続1年、2年と順番に表彰していきます。雇用を進めている企業には感謝状を贈ります。この会に参加した保護者の方に「うちの子も働けるかもしれない」と感じていただくためです。――利用者への就労移行支援で、日ごろ心がけていることはありますか。 忌き憚たんなく申し上げますと、私は、実際の仕事のトレーニングは、就職してからの職場での人間関係のなかでこそ有効になると考えています。逆に、施設内での作業訓練では、支援者の想定する範囲内での向上にとどまり、本人の能力を見限る危険があるかもしれないのです。 障害者雇用の世界では、就労するために、生活習慣や対人スキルといった「就労準備性」の修得を求めていますが、本人がこれを身につけるために、障害者を雇用する企業の現場で自分たちにどのような支援ができるかを問わなければなりません。例えば、職場でのナチュラルサポートのように、福祉支援者が行っていた支援をすべて企業に任せることではなく、障害者雇用のある企業文化を創造することが大事なのではないかと思います。 そのうえで、障害者が就労するために一番大切なことは、彼らが「働くことによって、ほかのだれかを幸せにしたいという気持ち」だと思っています。 最初は、「お母さんにプレゼントを買う」といったことでもよいと思います。働くなかで、「お客さまに喜んでもらう」、「職場の仲間とともに力をあわせて作業できることに感謝する」というふうに感じられるようになること。それが仕事の遂行力に結びつけば、やがて「彼に仕事を任せてみよう」という信頼の獲得にもつながっていきます。 障害者を取り巻く社会環境は、福祉サービスをはじめ「やってあげる」、「守ってあげる」という傾向があったと感じています。でも本当に、人が生きがいを感じるのは「だれかを幸せにしている充足感」だと思います。障害のある方すべてが「だれかを幸せにする権利」を行使できる社会を、みんなで目ざしていきたいですよね。企業や家族に後押しを就労するために大切なこと3

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