「働く広場」2021年10月号
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働く広場 2021.10方、資格を取っても就職に結びつかない人が少なくないことを実感した」という。しかも宮坂さんは、ネイル施術の需要も十分に把握していた。「あまり知られていないかもしれませんが、客室乗務員は手の爪にネイルを塗ることが美容基準で定められています。JALには客室乗務員が約6千人いますので、福利厚生としても大きく貢献できると考えました」小川さんもプレゼンテーションで「障がいに関係なく活躍できる職場を提供したい」と訴え、業務化が決まった。とはいえ、ネイリストの障がい者雇用については企業の先行事例が見つからない。ホームページで募集をかけたが手応えもなかった。「すぐに開業するつもりで、求人条件に『実務経験あり』としていたのが原因でした」と小川さんは話す。そこでネイル業界団体に協力を求め、経験者の2人が応募してくれることになった。それが総務センター羽田事務サービスグループに所属する山やま下したさんと坂さか角ずみさんだ。関節リウマチ障がいのある山下さんは、2019年開催の第39回全国アビリンピック「ネイル施術」種目で金賞受賞後、北海道でサロンを開業したところだった。「JALサンライトから声がかかったときは迷いましたが、東京で挑戦してみたいと決断しました」とふり返る。一方、内部障がい(※1)のある坂角さんは、もともと出張ネイルを続けていたがコロナ禍で困難な状況になっていたところ、JALサンライトを紹介されたという。2021年1月に正式採用された2人は、3月上旬のオープンに向け内装からネイル商材まで2カ月間で準備した。苦労したのは新型コロナウイルス対策で、パーティションの設置や毎回消毒しても変質しない道具選びなど、2人で相談しながら進めたそうだ。ネイルサロンがあるのは、JAL社員の訓練・教育関連施設などが入る「テクニカルセンター」。サロン内の大きな窓からは、羽田空港を見下ろすことができる。客室乗務員も仕事の行き帰りに立ち寄りやすく、評判は上々だ。これまで2人が何人もの施術を手がけるうちに、気づいたこともある。客室乗務員の指先が、予想以上に酷使されているということだ。乾燥した機内でのさまざまな業務はもちろん、感染対策のための消毒回数が増えたことも誘因らしい。2人は、地爪を弱らせないようアドバイスしながら、ネイルの強度を工夫している。「ここで施術してからネイルの“持ち”が長くなった」といわれるのが、大きなやりがいにつながっているそうだ。6月には聴覚障がいのある池いけ田ださんも入社した。サロンでのやりとりは、池田さんが発声ができるので、利用者の発言を即時に文字にする音声変換ソフトを駆使することで問題ない。池田さんは「ここは聴覚障がいについて理解のある職場なので働きやすいです。仕事では、2人についていけるようにがんばっていきたい」と話してくれた。山下さんは「障がい者にとっても、ネイリストという職業が普通の選択肢に入ることを願いつつ、私にできる発信をしていきたい」、坂角さんは「私はネイリストになってからの内部障がいでした。苦労はしましたが『復活できる』ということを伝えていきたい」と、そろって笑顔で話してくれた。ネイルサロンでは、知的障がいのある社員向けにネイル施術研修もしている。もともと興味があったという男性や、手先の器用な社員もいて、指導にも熱が入るそうだ。宮坂さんは「このなかから将来、ネイル業務にかかわる社員も出てくるかもしれません」と期待する。小川さんも「成田空港にもサロンを開設したい。実務経験を積める職場として、新人ネイリストも採用していきたいですね」と意気込んでいる。  JALサンライトは2018年以降、JAL本社のある天王洲ビルなどで、社員向けのマッサージルーム「Lラルゴarlgo」を「健康経営」も目ざす山下さんは、全国アビリンピックで金賞を受賞した実績を持つ施術はパーティション越しに行われているネイルサロンで働く山下さんネイルサロンで働く坂角さん※1 内部障がい:心臓、じん臓、呼吸器、ぼうこうまたは直腸、小腸、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫および肝臓の機能障がい6

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