働く広場2021年11月号
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働く広場 2021.1119ところ、要点は以下となる。・障害者を別枠にするということは差別的である・そもそも、五輪もパラ五輪も女性枠を設けており、男女混合ではなく、実力絶対主義ではない・五輪とパラ五輪を統合してはどうか こうした意見は、個人的には、納得できるところが大きい。本当の意味でのユニバーサルな世の中であれば、そもそも障害者を特別視して分けるという視点がない。 でも、よくよく考えてみると、パラ五輪が開催される以前には、そもそも、障害のある人が競技をして、それを多くの人々が観戦するというような、大きな大会がなかったのだろう。つまり、パラ五輪は、これまでなかった場を設けるという「社会的使命」を帯びて生まれたが、現代になって廃止論が唱えられるほど、社会のステージが成熟してきたとも考えられる。 障害者雇用においても同じような経過をたどっているのではないか。つま この夏は賛否がありながら、東京五輪、そして引き続いてパラ五輪が開催された。開催に至る経緯などを考えてしまうと、さまざまな意見があると思うが、実際に競技に真剣に取り組むアスリートの姿を目の当たりにすると、そのような頭のなかにあるモヤモヤした考えは、どこかへ吹っ飛んでしまう。 アスリートのがんばる姿、互いを尊重し合うスポーツ精神、高い技術に問答無用に魅了される。パラ五輪では、それに加えて、より多くの困難に立ち向かい、努力を重ねて素晴らしいパフォーマンスを発揮するアスリートたちに、純粋に、ただただ感動を覚える。障害にくじける様子を見せることなく、最高のプレーをしようと努力をする姿は、それがどれだけ困難なことか、どれだけの努力をしてどれほど多くの困難を乗り越えてきたのか、思いを致すと胸が熱くなる。 医療の現場にいて思うが、何かの障害があるということは、障害のない人が大多数の社会においては、まだまだとんでもなく多くの障壁が存在するのが事実なのである。 さて、このパラ五輪に廃止論があるという。いろいろな意見を調べてみたり、わが国では、障害者雇用率を目標に掲げ、その率を充足させるように国が働きかけを行っている。 裏を返せば、それだけ障害者の雇用率が低いということだろう。こうした目標を追っているうちは、まだまだ未成熟な社会ということだ。これが、障害者雇用率の目標を撤廃するような動きが出てくる時代になれば、ステージが成熟したと考えられるのではないだろうか。 五輪においては、LGBTQのアスリートが話題になったが、こうした話題が続いていくことで、社会の意識の変革は止まることはないだろう。社会の意識が変革すれば、競技のルールも変わる可能性があり、男女枠も曖昧になっていくかもしれない。変革の行きつく先は、性差別だけではなく、障害者を含むすべての差別撤廃に結びつくはずであり、そうなれば五輪とパラ五輪が統合される日がやってくる。 その日に、障害者雇用がどのような状況になっているだろうか。願わくば、就労を希望するすべての障害者に、障害のない者と同等に機会が与えられる世の中になっていてほしい。【第4回】パラ五輪と障害者雇用パラ五輪の感動パラ五輪廃止論配慮は人のためならずパラ五輪を観てパラ五輪を観て考えたこと考えたこと株式会社Dディーズs'sメンタルヘルス・ラボ 代表取締役(精神科医・産業医) 原 雄二郎 原 雄二郎(はら ゆうじろう) 精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本医師会認定医。 金沢大学卒業後、東京女子医科大学病院、東京都立松沢病院、東京都立広尾病院勤務を経て、東京大学大学院に入学。卒業後、同大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。同教室と連携し、鄭理香とともに「株式会社Ds’sメンタルヘルス・ラボ」を設立、代表に就任し、現在に至る。 臨床診療とともに、産業医・顧問医や研修講師として、職場のメンタルヘルス対策の支援を行っている。

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