働く広場2021年12月号
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働く広場 2021.1219障害のある人からが多い。その多くは、「私の状態を理解してほしい」という訴えである。これが、案外むずかしい。 例えば、うつ病の人の場合、ある人は「負荷が強まると不調になりやすい」といい、また別の人は「簡単な仕事をしていると必要とされていないと感じて不調になる」という。発達障害の人の場合は、ある人は「音が苦手で静かな環境がよい」といい、別の人は、「静かすぎてじっとしなければならない環境は苦手だ」という。 同じ診断名だったとしても、個人個人によって理解してほしい「自分の状態」は、千差万別である。このため、産業医あるいは精神科医として、一人ひとり、職場ごとにていねいに介入が必要だが、うまくいけば職場にとっても働く人にとってもハッピーな結果になるため、非常にやりがいがある。 一方で、企業側からすると、精神障害のある人の場合、金銭の出費をともなう配慮はほとんどない。上司などの対応を変えるといった「ソフト面での配慮」が主である。言葉を変えると、負担を金銭に換算することがむずかしく、目に見える形ではないため、その 合理的配慮についてよく相談を受ける。会社側、障害者側の双方からである。障害者権利条約によると、合理的配慮とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とある。つまり、ある障害によって、その障害のない者との間に何らかの不平等が存在する場合、過剰な負担がなければ、その不平等を解消するようにするということだろう。 会社側から受ける相談で多いのは、この過剰な負担がどの程度をさし、どの程度の配慮を講ずればよいのかということが多い。その会社の状況や必要な配慮によってケースバイケースとしかいいようがないのだが、その負担を金銭に置き換えることができる配慮であれば、検討がしやすい。例えば、車いす用のスロープの増設費用、聴覚障害用の音声入力システムの導入など具体的に必要な配慮にともなう費用は見積もりができるので、その数字をもとに社内で検討ができるだろう。 一方、精神障害の場合は様相が異なる。 じつは、障害者側からの相談は精神多くの配慮は、「講じることができる」または、「講じるべきだ」と社会からは見られる配慮といえる。このため、職場側には負担感が強いようである。 ただ、実際にアドバイスを行う内容といえば、・過重な負荷を避ける・体調に留意して、こまめにコミュニケーションをとる・強みを見つけて、強みを活かせるような業務を行わせる・(発達障害の人にもわかりやすいように)具体的で明確な指示出しをする・お互い助け合うような職場の雰囲気づくりをする といった内容である。 障害への配慮とはしているものの、具体的な内容に落とし込むと、最終的にはごく一般的な「快適でストレスが少ない職場づくりのためのアドバイス」に似ることに気がつく。 結局、最後は「同じ人である」ということだろう。身体障害のある人への配慮も、年齢とともに低下する全身機能にとって、有益な配慮も多い。高齢労働者にとっては、つまり、いずれはすべての人が高齢になる以上は、すべての人にとって「自分事」なのだ。 配慮は人のためならず、である。【最終回】合理的配慮はだれのため合理的配慮精神障害者への合理的配慮配慮は人のためならず株式会社Dディーズs'sメンタルヘルス・ラボ 代表取締役(精神科医・産業医) 原 雄二郎 原 雄二郎(はら ゆうじろう) 精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本医師会認定医。 金沢大学卒業後、東京女子医科大学病院、東京都立松沢病院、東京都立広尾病院勤務を経て、東京大学大学院に入学。卒業後、同大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。同教室と連携し、鄭理香とともに「株式会社Ds’sメンタルヘルス・ラボ」を設立、代表に就任し、現在に至る。 臨床診療とともに、産業医・顧問医や研修講師として、職場のメンタルヘルス対策の支援を行っている。

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