働く広場2022年1月号
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啓発の研修を行っていた。雇用にあたっては、東京ジョブコーチ支援センターの支援を受けて、鈴木さんができそうな仕事を切り出し、介護職員を支える業務をまとめていくことができた。少しずつ鈴木さんのできることが増え、いまでは高圧洗浄機によるベランダの清掃もできるようになってきた。取材の日は、ベランダのクモの巣を払う仕事をしているところであった。施設の周りには樹木が多く自然が豊かな場所にあるため、秋になれば多くの枯葉がベランダに集まる。「彼のおかげでベランダがきれいになった」と、三鴨さんが話してくれた。雇用した当初は田村さんが鈴木さんの担当であったが、業務内容が増えてきたこともあり、鈴木さんに現場の職員に報告・相談をしながら仕事をするように求め、現場の職員からも田村さんに報告が上がるように変えてきた。雇用管理のあり方を職員の状況により変えていくことが、鈴木さんの成長と一緒に働く現場の職員の理解や支援を生み出している。仕事のことは雇用現場で支援を行い、生活上の相談は就労支援センターが行うという形ができあがってきたことで、職場定着ができている。そして田村さんは、鈴木さんが利用者の部屋を掃除したとき、部屋の時計が止まっていることに気づき電池の交換ができたエピソードを話してくれた。「だれのために仕事をしているか彼はよくわ 西多摩郡日の出町にある「社会福祉法人ほうえい会」の介護老人福祉施設「栄光の杜もり」に着くと、施設長の三み鴨かも香か奈なさんと副施設長の田た村むら泰やす志しさん、事務の大おお津つ裕ゆ珠み子こさんが出迎えてくださった。こちらでは、山やま本もと憩いこ依いさんと鈴すず木き剛ごうさんを含め障害のある人を3人雇用している。山本さんと鈴木さんは就労上の重度障害者に該当する職員である。まずは、会議室で障害者雇用についてお聞きした。 山本さんを雇用したきっかけは、地域のボランティア団体「お年寄リスペクト隊」に障害のある方が入隊し、その母親と、隊長である副施設長の田村さんが出会ったことから始まったそうである。リスペクト隊は、自作のお年寄り向けの健康体操、認知症理解のための寸劇、要支援・要介護の方の手芸作品などの展示・販売を行い、地域貢献に取り組んでいる。その出会いから、近くにある東京都立あきる野学園に通っていた山本さんを紹介され、彼女の体験実習を「栄光の杜」で受け入れることになり、家庭および学校と東京ジョブコーチ支援センターの協力を得て、2021年4月からの雇用につながった。同センターの支援は、特別支援学校在学中の実習から受けることができ、雇用後も引き続き定着支援を受けている。取材したとき、山本さんは椅子などの清掃と消毒作業を行っていた。新型コロナウイルス感染症が広がったことから、こうした清掃や消毒はますます必要とされている。雇用事業所と家庭、学校、ジョブコーチが連携して、業務の時間管理ができるようにキッチンタイマーを活用したり、業務のスケジュール表や清掃箇所がわかるようにエリア図などの補助具をつくるなど、山本さんが働きやすい環境を整えてきた。また、田村さんと事務の大津さんを担当者とし、報告・連絡と相談がしやすい環境も整えた。毎日の連絡帳で、家庭との連携も大切にしている。山本さんも働く大人として学びながら、利用者と周囲の役に立つ仕事ができるようになってきた。こうした配慮と実績が山本さんのやりがいや意欲を生み出している。大津さんは、「自分自身が小学生のころから障害のある友人と一緒に勉強をしてきた経験があり、成人して一緒に仕事をする仲間として自然に受け入れることができた」という。教育には、地域に障害や多様性の理解を育む力があることをあらためて思う。 鈴木さんは上下肢に麻痺があり、身体障害者手帳1級を持っている。鈴木さんが雇用されたころ、「栄光の杜」ではハローワーク職員による障害者雇用の理解高齢者施設における障害者雇用と地域連携働く広場 2022.1社会福祉法人ほうえい会 介護老人福祉施設「栄光の杜」椅子の消毒作業を行う山本さん山本憩依さん鈴木剛さんクモの巣を払う鈴木さん(左から)事務の大津裕珠子さん、施設長の三鴨香奈さん、副施設長の田村泰志さん22

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