働く広場2022年1月号
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働く広場 2022.1 「モップで床を手当たりしだいに拭いていたため、拭き残しが多くありましたが、それでは不十分であることは本人は自覚できませんでした。そこで、フローリングの木目に沿って3列ずつモップをかけていくとよいと手順を示してくれました」 漠然とした指示の出し方ではとまどってしまう特性をよく理解したうえで、本人にとってやりやすい仕事の仕方を提案してくれたことは、専門家ならではの視点だったと塚本さんはふり返ります。 「アドバイスにしたがい、本人のやりやすい方法を用意することで、結果的に効率や作業の質が上がることも実感しました」    ジョブコーチは、生活リズムやメンタル面に対しての支援も行います。小能見さんは、人との関わりにおいて、とても心配性であることをジョブコーチからの情報で把握していた塚本さんは、一緒に働く職員にもそれを周知していました。しかし、それでも口調が厳しくなってしまうことがある職員に対して、小能見さんが苦手意識を持ってしまったこともあったそうです。 「どうしたら、小能見さん本人が状況を乗り越えられるかという視点で工夫をしました。例えば、苦手な職員に一対一で対面しなくてはならない場面では、私が必ず同行して安心できる雰囲気をつくりました。また、その職員の苦手な部分だけではなく、面倒見のよさや、やさしい言動などのよい部分にも目を向けられるような声がけを意識しました」と塚本さんは話します。苦労はしましたが、小能見さんには「どの職員に何を聞いても大丈夫だよ」と説明しているので、しだいに緊張感はなくなり安心し、いまではわからないことがあると、まわりの職員に自分から聞けるようになったそうです。 小能見さんへのジョブコーチの支援(図)は順調に進み、ジョブコーチの訪問の頻度は、月に4回(集中支援期間)から月に2回(移行支援期間)へと徐々に減り、現在は障害者総合支援法に基づく「職場定着支援」という形で、月に1回の訪問を受けています。訪問時には、小能見さんとの面談のほか、必ず塚本さんとの情報共有と助言の時間も設けられ、どのような工夫をしていけばよいのか考えることができたそうです。就労から約1年が経ち、勤務にも慣れた小能見さんは作業の腕前も向上し、職場で一目置かれる存在になっています。最後に塚本さんは、次のように話してくれました。 「本人にも、『もっとほかの仕事にも挑戦してみたい』という思いがあるようなので、応えていきたいと思っています。また、小能見さんは、当事業所にとって初めての障害のある従業員でしたが、ジョブコーチのサポートが受けられたことで自信を持つことができました。新たな障害者の雇用など、次の展開についても検討していきたいと思っています」図 小能見さんへの支援の流れコミュニケーションの課題をフォローして安心して働ける環境にジョブコーチの活用で障害者雇用の自信につながった2020年9月:「特別養護老人ホーム空」に採用実習期間集中支援期間(月4回訪問)移行支援期間(月2回訪問)フォローアップ期間(月1回訪問)職場定着支援(月1回程度の訪問)※通常約1年だが、期間満了を待たず、 「職場定着支援」に移行2020年10月:ジョブコーチ支援開始2020年11月中旬2021年1月現在「特別養護老人ホーム空」で働く小能見彩夏さん小能見さん専用の清掃道具。モップには矢印をつけて、どの方向に動かせばよいのかわかりやすく示されているいまでは、安心して職員とコミュニケーションがとれるようになった★写真提供:社会福祉法人寿陽会 特別養護老人ホーム空27

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