働く広場2022年3月号
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働く広場 2022.3※2 Latane, B. & Darley, J. M. (1970). The unresponsive bystander: Why doesn't he help?, Appleton- Century- Crofts,  (B.ラタネ・J.M.ダーリー, 竹村研一・杉崎和子(訳)(1997).『冷淡な傍観者―思いやりの社会心理学』ブレーン出版) それでは職場のナチュラルサポートは、どのような要件で発生するのでしょうか。どのような場面を切り取るかにより、さまざまな考え方がありますが、ここでは研究の知見が蓄積されており、ナチュラルサポートと類似している「援助行動」(自ら進んで〈自由意志から〉、意図的に他者に恩恵を与える行動)の発生要因の紹介をしたいと思います(※2)。それによると、・困っている状況が発見されるか(見つけにくい状況では当然、援助は発生しにくい)・援助の必要性があると認識されるか(援助する必要があると判断されないと援助は発生しにくい。例えば「自業自得」などと思われると援助されにくい)・自分に援助を提供する責任があると判断するか(援助を提供すべき状況と思っても、その状況を見つけた人が自分に援助の責任があると判断しないと援助は提供されにくい)・どのように援助すればよいのか方法がわかるか(援助方法やかかわり方がわからないと援助は提供されにくい) などがあげられています。 加えて、障害のある人自身の援助を求める行動も、ナチュラルサポートを引き出す要因となります。そして、このようなナチュラルサポートの発生につながるよう、ジョブコーチ支援では、作業の速度や精度の向上のための支援だけでなく、ジョブコーチ支援の対象となる人が「わからない」、「困った」というときに、自ら質問に行けるようにするといった支援も行います。また、企業の担当者を一人あるいは複数人定めて、支援の対象となる人の障害特性や行動特性を、その担当者に情報提供するということも行われます。 ジョブコーチ支援を利用する企業の担当者の観点からいえば、ジョブコーチと情報交換をしつつ、ストレスを感じることなく、正しい状況の把握や適切な対応案の検討、実際の指導や注意の実施を行えることで、援助行動あるいはナチュラルサポートという支援につながりやすくなる、とも言い換えられるでしょう。そして、このような状況を長く維持するには、(企業の担当者だけがかかわるのではなく)組織や職場としての理解と援助が必要となるのです。  以上、職場におけるナチュラルサポートについて述べてきましたが、もちろんナチュラルサポートは万能ではなく、就職後、職場定着の段階でも、状況によっては専門家との連携も必要となります。 日常的なサポートや見守りは障害のある人を受け入れた事業所・職場で行い、事業所の対応できる範囲を超えた問題(障害特性に起因するような問題であったり、事業所の外の生活場面で発生する問題など)については、専門家を活用していただければと思います。 このように、関係者それぞれが役割を果たすことで、「ノーマライゼーション」、「インクルージョン」社会の実現につながっていくことでしょう。出典:厚生労働省ウェブサイト(※1)職場のナチュラルサポートを生む要件とはおわりに・障害特性に配慮した雇用管理に関する支援・配置、職務内容の設定に関する支援・職務の遂行に関する支援・職場内のコミュニケーションに関する支援・体調や生活リズムの管理に関する支援・安定した職業生活を送るための 家族の関わり方に関する助言・障害の理解に関する社内啓発・障害者との関わり方に関する助言・指導方法に関する助言上司・同僚家族ジョブコーチ事 業 主(管理監督者・人事担当者)障 害 者図 ジョブコーチ支援の内容17

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