働く広場2022年3月号
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働く広場 2022.318しい場合があることです。発達障害のある人も、仕事を自己実現の場にしたいと思っています。しかし、障害者雇用という雇用形態上、より上のキャリアに進めない場合があります。 発達障害のある人の雇用を積極的に行っている企業を取材したことがあるのですが、その企業の代表は、発達障害当事者に対して「適度な無関心」を心がけているとのことでした。それは、「発達障害だからこの作業はできないよね」と決めつけるのではなく、適度な距離感を保ちながら、その人ができそうな仕事を依頼するのです。また、「適度な無関心」とはいえ、集中力が欠けてしまいがちな特性のある人にはデスクにパーテーションを置いて視界を遮ったり、聴覚過敏のある人にはノイズキャンセリングヘッドホンの貸し出しを、人が近くを通ると気が散ってしまう人は人通りが少ない奥の席にする、じっと座っていられない人は立って仕事ができるスペースを用意するなど、さまざまな合理的配慮に取り組まれていました。 しかし、オープンで働いてもクローズで働いても、それぞれメリットとデメリットはあります。そのメリット・デメリットを企業側も意識して雇用していけば、発達障害のある人の離職率は減るのではないかと思います。 発達障害のある人がいちばん困っていることは就労関係です。なかなか自分にマッチした企業と巡り会えずに何度も転職をくり返す人も少なくありません。私が以前取材した際に感じたのは、障害者雇用を行っている企業でも身体障害のある人の雇用が多く、精神障害のある人の雇用、または精神障害のある人を雇用していても発達障害のある人の雇用が少ないケースがあるということです。これは、企業内での障害のある人へのサポート体制や、メンタル不調による急な欠勤の対応など、さまざまな理由から、精神障害や発達障害のある人の雇用を控える企業が多いからだと考えられます。そのため、クローズで(発達障害があるということを隠して)働いている人もいます。しかし、クローズで働いている人のなかでも、直属の上司にのみ発達障害であることを伝え、合理的配慮を受けられている人もいました。このあたりは上司との関係性が重要となってくるでしょう。 また、オープン就労(障害があることを公表して働くこと)をしていても、企業とのズレが生じてうまく働けずに退職してしまう人にも取材中に出会いました。まず、発達障害に対する認知度がまだまだ低いことが要因にあげられます。発達障害のある人は「できること」と「できないこと」の差が大きいので、その人個人をよく見てあげて、その人ができる仕事を割りふることが大事な鍵となってきます。また本人も、例えばケアレスミスが多いのであれば、同僚や上司に「ケアレスミスを起こしやすいのでダブルチェックを頼んでもいいですか?」と頼ることも、働きづらさの改善につながります。そのためには、発達障害とはどのような障害であるのか、また、どのような配慮が必要なのかなど、受け入れる企業で研修を行ってほしいと個人的には思っています。 発達障害のある人は、100人いればその特性は100通りです。発達障害だから事務仕事が苦手だとか、営業が苦手だとか、そのような決めつけは偏見を助長してしまいます。発達障害のある人でもASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)でこだわりの特性が強い人であれば、経理などでも細かなミスを見つけることができますし、ADHD(注意欠如・多動症)で外交的な特性のある人ならば営業に向いていることもあります。 そして、発達障害のある人が働くうえでの深刻な悩みは、キャリアアップがむずか発達障害当事者の働きづらさのリアル第3回~オープンとクローズ、どちらで働く?~姫野 桂姫野 桂(ひめの けい)フリーライター。1987(昭和62)年生まれ。宮崎県宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブ媒体などで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ、など。おもな著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)などがある。

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