働く広場2022年4月号
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 知的障がいのある子どもたちは、高校卒業後に学び続けられる場所が少ない。障がいがなければ専門学校や大学といった学びを続け、人生を豊かに自由に過ごすことのできる時間があるが、障がいのある子どもたちにはその猶予はない。学ぶことや経験することで少しずつ成長する子どもたちが豊かに生きる、さまざまな選択肢が拡がることを希望する。 私が両校の取組みで一番驚いたことは、二校ともに寄宿舎があり、1年生は全員が寄宿舎での生活を送るということだった。小牛田高等学園の寄宿舎は、学校から徒歩約10分の場所に立地している。これまで20年以上寄宿舎で生徒指導にあたられている鈴すず木き紀のり之ゆき先生に、寄宿舎をご案内いただきながらお話をうかがった。 寄宿舎での生活は年間160泊程度で、週末や夏休み・冬休みなどの長期休暇時は家庭での生活に戻るという。寄宿舎での一日のスケジュールは図のようになっており、起床後は6時15分から自分の部屋の清掃を30分、共用部分の清掃を30分かけて毎日行う。この清掃指導は、生徒たちの基本的な掃除力の底上げや将来を見すえた朝型の生活リズムづくり、同室生徒との協力や生活の場に対する責任感をつちかうため徹底しているそう人の規模である。生徒たちは、教科学習に加え、専門教科を通して職業教育を学び、高校3年間で社会参加と職業的自立を目ざす。 卒業後の進路は大きく三つに分かれる。一つは「一般就労」であり9割以上の生徒たちが、製造、卸売・小売、サービス業、教育、運輸・郵便、医療福祉など、さまざまな産業現場へ就職する。驚いたのは就労先の企業の数の多さである。東京都や大阪府などの都心部に比べ企業数が少ないため、就労先開拓には非常に苦労されているのではないかと想像していたが、障がいのある生徒が多くの企業で就労していることを知った。 一般就労以外には「福祉サービス利用」と「進学」を選択する生徒がいる。ここでは特に進学について触れたい。進学先としては、宮城障害者職業能力開発校に加え、支援学校仙台みらい高等学園といずみ高等支援学校専攻科があり、ここではさらに数年間社会で活躍するための訓練を受けてから一般就労を目ざす生徒たちがいる。高校の3年間だけでは就労がむずかしかった生徒でも、学び続けることで成長し一般就労のチャンスが拡がることもある。岩沼高等学園進路指導の庄しょう司じ竹たけ弥や先生も、「3年間では学び足りない生徒たちでも、さらに数年学習を重ねれば企業就労の可能性が拡がると感じることも多い」とおっしゃっていた。がしたい!」と発言し、前のめりで参加する生徒がいたり、一方で「自分はそんなこと考えてもいないな」、「一人暮らしをしたいと考える仲間が結構いるんだな」と、ほかの生徒の考えに刺激を受ける生徒もいるようだった。 生徒たちはタブレット端末などのデジタルツールを利用した学習に積極的な態度を示すことが多く、リアルな生徒の考えを把握し、すぐに生徒に伝えることが非常に有益だという。 生徒たちは質問されて初めて自分の考えに気づいたり、整理したりできる。また仲間の考えを知ることで刺激を受ける。気づきの多い授業であると感じた。このような経験を通して、一歩ずつ10年後の自分を描いていくのだろう。 このデジタルツールを活用した授業はこれからさらに拡げていきたいという。 小牛田高等学園と岩沼高等学園の見学を通して、先生方は深い愛情を持って、温かくおおらかに人物教育をされており、高校3年間だけでなく、その先の生徒たちの将来まで見すえた指導をされていると感じた。 小牛田高等学園は1学年に生徒は24人で、全校生徒は72人、岩沼高等学園は1学年に生徒は40人で、全校生徒は120卒業後の進路高校1年生は全員、寄宿舎生活一人暮らし体験も働く広場 2022.4芸術鑑賞の授業では、和太鼓のパフォーマンスが披露された岩沼高等学園での専門教科「家政」の授業岩沼高等学園では、職業教育の一環として校内清掃を行っている図 生活日課表6:156:557:007:308:00起床・身じたく部屋掃除(~6:45)朝礼分担区清掃・配膳朝食(~8:00)登校開始学 校帰舎夕食(~18:30)棟の集まり入浴(~20:30)消灯(就床)18:0018:5022:0023

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