働く広場2022年5月号
21/36

働く広場 2022.519を行っています。ライターさんのなかには、インタビュー中にメモをたくさん取る人もいますが、私は特に印象に残った言葉だけをメモして、あとはICレコーダーに頼っています。ですので、会社員時代にICレコーダーを使っていれば、議事録の作成がもっと楽になっていたのではないかと思います。 最近ではスマートフォンにも録音アプリがありますし、上司や同僚がいったことをすぐ忘れてしまう人や、会議の長いメモを取るのが苦手な人は、ぜひ使ってもらいたいアイテムです。こちらももちろん、定型発達の人にも役立ちます。 そして最後に、発達障害のある人が働きやすい職場づくりについてお話ししたいと思います。発達障害のある人は、過去にたくさんの失敗を重ねて怒られてきて、非常に自己肯定感の低い人が多いです。それが故、「次はいつどんなことで怒られるのだろう」とビクビクして「報・連・相」ができない人もいます。報・連・相は仕事をするうえで重要なことです。ですので、高圧的な態度を取ったり、風通しの悪い雰囲気をつくったりせず、気軽に報・連・相ができる環境づくりをしてもらえると、発達障害のある人にはとてもありがたいです。 発達障害のある人が働きやすい職場は、定型発達の人が働きやすい職場でもあるのです。ちょっとした工夫で、だれもが働きやすい職場になるはずです。 発達障害のある人は、仕事内容がなかなかマッチングせず、短期間で転職をくり返してしまう人が多いです。特に、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の特性がある人は、抽象的な指示が苦手です。 例えば、「この辺りを適当に片づけておいて」と指示されたとしましょう。定型発達(※)の人は、ある程度綺麗に片づけることができますが、ASD傾向のある人は言葉のまま受け取り、本当に〝適当に〞片づけてしまうのです。このようなすれ違いが起こり、発達障害のある人にとっての「働きづらさ」が発生してしまいます。 しかし、考えてみると定型発達の人にとっても「あれ」とか「あそこ」とか、抽象的な指示をされるより、きちんと「○○さんの手帳」とか「新宿駅の東口」といった的確な指示を出されたほうがわかりやすいですよね。しっかりと主語と述語を含んだ指示は発達障害のある人にとっても定型発達の人にとっても「働きやすさ」につながるのです。 また、発達障害のある人のなかには、ワーキングメモリが低い人もいます。ワーキングメモリというのは、頭のなかにあるメモ帳のようなもので、定型発達の人はこのメモ帳の容量が大きく、短期記憶ができるのですが、発達障害のある人はこのメモ帳の容量が小さく、話が長かったりすると、すぐに最初にいわれたことを忘れてしまいます。 例えば「営業部の山本さんのところに今月分の資料をもらいに行って、その後は経理部の中谷さんのところに行って、その資料を渡してください」と口頭で指示されたとします。定型発達の人は、この作業を難なくこなせますが、ワーキングメモリが低い人にとっては「えーと、営業部の山本さんのところに行ってその後は何部のだれのところに何をしに行けばよかったんだっけ……」と記憶がすり抜けてしまいます。 このワーキングメモリ不足によるミスを防ぐには、指示を可視化することが重要です。発達障害の傾向がある人は聴覚による情報処理が苦手な人も多いため、メールやメモなどで文書化して指示をすると、うまく記憶にとどめることができるうえ、何か問題が発生したときに、そのメールやメモで確認できたり証拠を残すことができます。これは、障害の有無に関係なく、どの人にとっても便利なのではないでしょうか。 実際、私もワーキングメモリがとても低いので、会社員時代に会議の議事録を取っていた際は、本当に必死でした。なんたって、聞いたことがするすると頭から抜け落ちていくのですから。 いまではライターという仕事で欠かせないICレコーダーというアイテムをインタビューの際などに使用し、後で文字起こし発達障害当事者の働きづらさのリアル~発達障害者が働きやすい職場とは?~姫野 桂姫野 桂(ひめの けい)フリーライター。1987(昭和62)年生まれ。宮崎県宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブ媒体などで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ、など。おもな著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)などがある。※定型発達:発達障害がないこと

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る