働く広場2022年5月号
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働く広場 2022.5き合わせてみると、現場の本音が出てきます。今回の在宅勤務についての問題は、当初、「守秘義務や情報漏えいに課題がある」といっていたのですが、よく聞くと、じつは「テレワークでの社員の労務管理がむずかしい」ということでした。そこで私が「まず一度やってみて、課題をフィードバックすればいい」と提案したところ、予想以上にうまくいき、障害者雇用での在宅勤務が実現しました。障壁になっていたのは企業側の「できるわけがない」という固定観念だったようですね。 障害者雇用の現場では、ボタンのかけ違いも少なくないと感じます。あるとき、大手スーパーに勤める精神障害のある社員から「もっと仕事をがんばりたいのに、任せてもらえない」という相談がありました。人事担当者に聞いてみると「ゆくゆくは責任者に育てたいので、無理をさせたくなかった」とのことでした。せっかくの本人の向上心も、雇用側の配慮の気持ちも、かみ合わなければ、不当評価やパワハラといった負の連鎖を生んでしまいます。これは、早い段階から双方の意思疎通が図られていればすむ話でした。互いにいうべきことをいわず、聞くべきことを聞いていなかったのです。私は相談者にも厳しいアドバイスをしますが、職場では単に「合理的配慮をしてほしい」というのではなく「仕事をするうえでこういう支障があるから、こういう配慮をしてほしい」と具体的にいわなければ伝わりません。 ――障害者雇用に取り組む企業の方へアドバイスをお願いします。 いま障害者雇用率がゼロの企業は、ほとんどが一度も雇用したことのないケースだと思いますが、まずは失敗を恐れずトライしてほしいですね。ちなみに私は、初めて障害者雇用に取り組むような企業の担当者には、障害者職業生活相談員の資格認定講習で使われるテキストの熟読をすすめています。あのテキストは、本当によくできている内容だと思います。 すでに障害者雇用を進めている企業に対しては、きちんと機能する相談窓口の整備をおすすめします。これは労働基準法の安全配慮義務をはじめ、障害者雇用促進法、障害者虐待防止法を含めた法令順守(コンプライアンス)として必要だと思います。またこうした窓口がなければ、当事者の悩みの矛先が職場内の同僚や上司に向かうかもしれませんし、職場全体のパフォーマンス低下や企業の競争力低下にもつながりかねません。職場から独立して整備された相談窓口は、職場の社員全員を守ることになるのです。――最後に、労働組合の立場から、障害者雇用のあり方について考えを聞かせてください。 みなさんご存知のように、障害者雇用促進法の第4条には、障害者である労働者は「自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない」という一文があり、第5条では、事業者の責務として「能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない」とあります。 私自身も1種1級の身体障害者手帳を持っていますが、いまの社会では、障害があるということはどうしても不便です。その状況で健常者の5倍、10倍努力して働こうとしている障害者に対しては、雇用側もできるだけ健常者と同じように働ける職場環境を整えてこそ、労働契約が成り立つのだと考えます。 さらにいえば、障害者雇用促進法は2019(令和元)年に改正され、国の省庁や自治体など公務部門で障害者雇用を進めるうえで「活躍推進計画書」の作成が義務づけられました。法律上でも人材育成を求められるようになったわけです。これは、いずれ必ず民間部門にも適用されるでしょう。 企業は、雇用したからには障害者を人材育成のテーブルに載せていくことが、そして働く障害者も自分なりに努力していくことが、それぞれ求められているのだということを自覚しておく必要があると思います。相談窓口の整備を人材育成のテーブルに載せる3

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