働く広場2022年5月号
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働く広場 2022.5や不安ばかりをあげていたことが、大きな間違いだったと気づかされました」さっそく、同年のうちに本格的な在学生の職場実習をスタートさせたが、実習の質を落とさないため、一度の実習に2人までと決め、別々の部署で受け入れることにした。安全性については、「何か落ちてきても絶対に手を出してはだめ」と学校の先生が事前に教え込んでくれたことで、予想以上に徹底できたそうだ。作業内容は先生と相談しながら、本人に合わせて柔軟に決めている。先生も、事前に工場を訪れて一日中作業を見学したり体験したりして、生徒たちの実習内容を考えるそうだ。具体的には、事務的な軽作業から溶接、レーザー、鈑金作業までと幅広い。実習期間は原則2週間だが、生徒によっては1~3日のこともあれば、2週間を3回行うこともある。栄和産業での職場実習は、就職への足がかりになるだけでなく「実習で自信をつけて、本人の自己肯定感が高まった」という話が先生たちの間で広まり、次々に申し込みが来たという。これまでに栄和産業の職場実習には、就労移行支援事業所の利用者なども含め、110人以上が参加。このほかに、中学校の支援学級の生徒なども受け入れている。養護学校からは2016年に初めて卒業生1人を採用して以来、毎年採用を続けている。 栄和産業の新入社員は、障がいの有無に関係なく、原則として配属前に必ず2週間ずつ全工程をジョブローテーションする。プレス、レーザー、溶接、鈑金、仕上げ、検査、ベンダー(部品を曲げる)といった作業だ。4月の入社後6月末までに、本人から担当作業の第1~第3希望までを出してもらい、得意不得意や特性を見ながら、現場の管理者と相談して配属先を決める。伊藤さんが説明する。「特に障がい者雇用においては、何ができないかを見るのではなく、できることを認めることが大事だと思っています。その後は失敗してもいいから新しいことに挑戦し、できることを一つずつ増やしていきます」配属時には「苦手なことはいったん棚上げにして、得意なことを先輩が見つけてくれるから、そこで勝負していこう」と激励する。そしてある程度の経験を積んだ後に、「不得手なこととあらためて向き合ってみたら、克服の方法も変わっているかもしれないよ」とうながしていくそうだ。入社後1年間は、これも障がいの有無にかかわらず全員が、月に1回伊藤さんあてに「相談シート」を提出し、それをもとに社長面談も月に1回行っている。相談シートはアプリに入力する形で「不安なこと、不満があること、疑問に思うこと、うまくいかないこと、できるようになったこと、良い報告やうれしかったこと」などを記入するが、内容はプライベートなことでもかまわない。なぜなら以前、入社したての若い社員がプライベートな問題で離職したという、苦い経験があったからだと伊藤さんはいう。「会社は基本的に、社員のプライベートには立ち入らない立場です。ただ、高校や養護学校を卒業したばかりの10代の社員は、まだまだ子ども。私も親や先生のような気持ちで『何でもいっていいよ』という場をつくりたかったのです」相談内容は、職場・家庭内の悩みから異性関係までさまざまだ。伊藤さんは話を聞き、職場で対応できることは対応し、それ以外はアドバイスをする。配属前にジョブローテーション企画部主任の伊田一平さんパソコンを使用した名刺のレイアウト作業6

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