働く広場2022年5月号
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働く広場 2022.5受け入れ先の部署には、当初は大まかに障がいがあることしか伝えていなかったが、いまでは本人の了解を得たうえで「アナログ時計が読めないのでデジタル時計に変える」、「漢字が苦手なのでふりがなをつける」といった具体的な配慮事項を伝えるようになり、現場のコミュニケーションも各段にスムーズになったそうだ。コロナ禍で社会が不安定な時期には、社員からの相談も増えたという伊藤さん。障がいの有無にかかわらず、社員がだれでもいつでも相談できる窓口の必要性を感じ、昨年度から社内の環境づくりに乗り出した。「具体的には、メンター制度のような体制をつくりたいと考えています。まずは外部の専門家に協力を仰ぎながら、社内で担当者を育てていく予定です」 2016年には、総務部から独立する形で企画部が発足。障がい者雇用をはじめ人事・教育・広報関連の業務を担当することになった。現在、部員9人のうち3人が障がいのある社員だ。企画部で主任を務める伊い田だ一いっ平ぺいさんは、大学時代は映像分野を学び、障がい者雇用についての知識はほとんどなかった。入社後に、綾瀬市で実施している研修に参加したり、自分で本を読んで勉強したりしながら職場での支援や対応に活かしているという。伊田さんは、「職場では、本人と同じ目線に立ち、上からでも下からでもなく、フラットな関係性を心がけています。たまに気まずくなったら、無理になんとかするよりも、ほかの社員に担当を変わってもらうこともありますね」と話してくれた。企画部では2017年、名刺事業を立ち上げた。きっかけは、同年に入社した重度の知的障がいのある20代の男性社員だ。入社当初は、荷札を折ってホッチキスで留める作業を担当していたが、伊藤さんが「本人が会社の売上げに直接貢献できるような仕事を考えてみよう」と企画部と相談。試しにラベルプリンターの作成をやってもらうと問題なくできたため、「名刺印刷の入力もできるかも」とパソコンに挑戦してもらったところ、これもクリアしたという。「彼はもともと、一つのことを練習し続けられる粘り強さがありました。入社後にその才能を開花させ、大きく飛躍しました」と伊藤さんは目を細める。利益率を本業の製品と同じように計算して値段を決め、取引先などに営業をかけた。いまでは診療所の名刺や理容院のスタンプカード、社名入りの封筒の製作依頼も来ていると伊藤さんはいう。「入社前まで長く福祉作業所に通っていた彼が納税者になり、社会に支えられる側から支える側になっています。『売り手よし、買い手よし、世間よし』の“三方よし”が整ったビジネスプランとして、周囲にも評価されました」さらに障がい者雇用の拡大を目ざし、2018年には「バイオ事業部準備室」もつくった。いまは市販の栽培キットを使って、作業の抽出や収穫率の検証などを行っている。 障がいのある社員は、7工場3部署に配属されている。そのなかの本社工場を見学させてもらった。ここでは44人の社員のうち7人が障がいのある社員だ。鈑金加工の作業をしていたのは、2016年入社の木き村むら拓たく也やさん(28歳)。以前は電気工事士だったが、職場の人間関係が原新規事業もアドバイザーが見守る鈑金担当の木村拓也さんハンマーを使い、製品の形を整える木村さん7

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