働く広場2022年6月号
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らがコメント欄で「私が業務説明で理解度を確認しながら進めればよかったですね」、「理解できないまま仕事を進めるのは不安ですね。こまめに確認し休憩をとるようにしてください」と返していた。「統計」をクリックすると、グラフ表示で体調や精神状態のアップダウンの波が一目瞭然だ。雨の日や悪天候の日は頭痛がして体調に影響することがわかる。本人と毎月のふり返りで確認しながら「涙が出たのはどうして」、「気持ちの焦りが続いたのは仕事で気になることがあるせいですか」と問題解決へ進むことができる。場合によっては臨床心理士、精神保健福祉士ら専門家がアドバイスする。 金塚さんは、「利用者が就労したシステム会社の社長さんとうちの支援員、会社の受け入れ担当者らが、こういうものがあれば精神障害者の不調、悩みが見える化できると考え、意見を出し合ってSPISができました。当初はコミュニケーションのツールとして定着支援に使っていましたが、不調の背景にある悩み、課題へのアプローチも可能になっており、いまは就労移行支援でも自分のメンタルの把握、そこから進んでセルフケアの進展状況のチェックなど幅広く活用しています。利用者へのプログラムと支援員へのプログラム、その二つが大切です」と話す。設長で本誌編集委員でもある金かな塚つかたかしさんに話を聞いた。 見えないといわれる精神障害特有の「不調」、「悩み」。コミュニケーションが不得手なケースも多く、伝達、把握も容易ではない。そこで、頭痛や不眠などの小さな不調を日報形式でパソコンに入力すると、グラフや表になって表示されるシステム「SエスピスPIS」を開発、活用しているという。 精神・発達障害のある人たちのメンタル不調を把握するため、個人の特性に合わせ「朝までぐっすり眠れた」、「頭痛」、「自分の気持ちを素直に表現できた」、「焦りを感じる」、「仕事でミスがないか、確認できた」、「休憩を申し出ることができた」など六つの評価項目が設定されており、1から4までの数字で評価を記入する。また当事者のコメント欄があり、例えばAさんは「午前中はがんばれたが、午後は初めての業務を教えてもらう場面で、一部理解できなかった。何度も質問しては悪いと思い、わからないまま退社し気分が重い」と記入している。 このように、その日の不調、悩み、精神状態、ストレスになっている仕事上のことが、具体的に把握できるようになっている。そしてAさんに対しては、企業の担当者、就労支援事業所の職業指導員59万7786人。対前年比の伸び率は3・4%。障害別は身体障害者35万9067・5人(伸び率0・8%)、知的障害者14万665人(同4・8%)、精神障害者9万8053・5人(同11・4%)。働く障害者が増えていく伸び率は精神障害が最多。雇用障害者数の増加の大きな要因になっている。 2018年度から身体障害者、知的障害者に加え、精神障害者が障害者雇用率の算定対象になり、就労支援機関、精神科医療機関、企業などの支援と精神障害者らの努力で、年々一般就労する雇用障害者数は増加している。 しかし、精神障害者の就労には「勤務時間が短い」、「定着率が低い」という課題があり、このハードルをどう乗り越えるか、頭を悩ませる支援員は、いまなお多い。企業からは「精神障害は目に見えない」、「コミュニケーションが取りにくい」という難点が指摘されている。このような現状のなか、精神障害、発達障害に特化した専門家集団の取組みと成果は注目されている。 就労支援の専門性の向上へどう取り組んでいるか、JSN副理事・統括施「SPIS」の開発、活用働く広場 2022.624

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