働く広場2022年7月号
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Kプランニング代表仕事とは無縁だった障害者の芸術活動音楽や絵画活動だけの仕事場もある 戸原一男福祉を超えた本格的なアート事業の確立を和61)年に社会福祉法人東京コロニーいまでこそ障害者の芸術作品は「アール・ブリュット」(※)として専門家からも高い評価を受けているものの、数十年前まではそんな世界など想像もできなかった。ここに風穴を開けたのが、1986(昭が設立した「アートビリティ」である。障害者の描いた絵画を撮影してデジタルデータでストックし、印刷メディアなどに有料で貸し出しするという事業だ。現在ではすっかりお馴染みになった事         ルボーニラア向きの絵を揃えるために、作品選考は業スタイルだが、当時としては障害のある人が描いた絵(正確には複製物)の利用料として、お客さんから「お金をもらう」発想は画期的だった。しかもメディ美術専門家ではなくグラフィックデザイナーが担当した。その結果、労働組合や大手企業などが競って冊子やカレンダーなどに年間約400点以上も採用するようになったのである。アートビリティの成功は、障害のある人の芸術活動を、関係者が「事業」として再認識するきっかけとなったのではないか。障害者アートの可能性を世の中に訴え続けてきたNPO法人エイブル・アート・ジャパンも、2007(平成19)年から「エイブルアートカンパニー」を設立し、メディアへの貸出事業を始めている。その後、続々と各地で同じスタイルの活動を進める組織が生まれ、専用の撮影スタジオを備えて作品のデジタルアーカイブ構築に力を注ぐ「天才アートKYOTO」という団体も現れた。音楽や絵画などの芸術活動だけを作業科目とし、高い工賃を実現している就労継続支援B型事業所「JOY倶楽部」もある。障害のある人たちがプロ顔負けの演奏隊を編成し、各地で有料コンサートを開催しているのだ。街中で行う絵画のライブパフォーマンスも人気を集め、原画やグッズ販売が好調だという。立ち上げ時には「芸術活動だけで工賃が稼げるはずがない」と反対意見も多かったらしいが、いまや時代の最先端をいく施設として注目されている。さらにいま、注目すべきなのは「株式会社ヘラルボニー」の活動だろう。「異彩を、放て。」をミッションに若き経営者が立ち上げた福祉ユニットで、大手企業とのダイナミックなコラボレーション事業を次々に実現させている。軸となる活動は、知的障害のあるアーティストとライセンス契約を行い、オリジナルブランド「HヘERALBONY」として製品を流通させていくことだ。既存の福祉団体との決定的な違いが、製品レベルの圧倒的な高さだろう。例えばネクタイなら、プリントではなく500〜600本の糸を織り込むことで原画を再現。アート性を存分に活かした仕上がりとなっている。1本3万5200円という価格設定にもかかわらず、高級ギフト用品として根強い人気を誇る。障害者アートをビジネス化するという究極の形が、まさにここにあるといっていい。「芸術活動は、仕事になるか?」という問いかけは、それ自体が(なかなかそれを活用しきれない)福祉関係者を代弁しているような気もする。障害のある人たちが描く作品には、自分たちが考えている以上に可能性があるという認識を、支援者側はもっと強く持つべきなのではないか。※アール・ブリュット(Art Brut): 既存の美術などとは無縁の文脈によって制作された芸術作品をさす。フランス語で「加工されていない芸術」という意味が語源。英語では「アウトサイダー・アート」ともいわれる戸原一男(とはら かずお) 約13年前から「SELP訪問ルポ」(日本セルプセンターWEBサイト)や『月刊福祉』(全国社会福祉協議会出版部)にて、290カ所以上の障害者就労支援施設の取材記事を連載する。施設職員を対象とした工賃向上研修会の講師実績も多数。 おもな著書として、『障害者の日常術』(晶文社)、『障害者アートバンクの可能性』(中央法規出版)、『パソコンで絵を保存しよう』(日本エディタースクール出版部)、『ブレイブワーカーズ』(岩波ブックセンター)、『はるはる日記』(Kプランニング)、ほか。働く広場 2022.7第2回仕芸事術に活な動はるか、?19多様でユニークな支援のあり方

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