働く広場2022年7月号
8/36

の大きな転機は、2012年の新社屋建設だった。設計担当者らから「自社ビルにこれだけの設備が本当に必要なのか」といった消極的意見もあったが、田中さんは「本社は、いわばモデルルームです。(設置義務の)地域防災センターとしての役割も含め、十分なバリアフリー化は必須です」と説明しながら進めたそうだ。その結果、車いすユーザーも使いやすい通用口やエレベーター、オストメイト対応の多目的トイレなどを揃えたが、障害種別によっては「かえって不便」というものもあった。「例えば、廊下の壁に沿ってつけた手すりは、下肢障害の人には助かるが、視覚障害の人はぶつかることも多いといわれました。みんなが納得できる着地点を模索しながら改善を重ねています」と、田中さんは語る。今年度は多目的トイレの改修が予定されている。理由は、両手の握力が弱い車いすユーザーには使いにくいことがわかったからだ。というのも昨年秋、右半身に障害のある従業員から「使いづらい」との声を聞き、あらためて社内の車いすユーザーからアンケートをとったところ、実態が判明した。お腹の調子が悪いときは上司に相談し、在宅勤務に切り替えてい本も洋よ一いさんが、発起人として参画。現在た人もいたという。そして便座の両隣に台を置けば、そこに手をつくことで安定して移動できることもわかったそうだ。経営陣からのトップダウンによる意識改革も進んだ。2013年、障害者雇用の新しいモデル確立を目ざして20数社により設立された「一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)」に、当時清水建設の社長(現会長)で、ダイバーシティ推進の旗振り役だった宮みは理事に就任している。社内での取組みも活発化した。「障害者雇用」をテーマにしたeラーニング全員受講をはじめ、聴覚障害のある従業員のためのUDトーク導入、「同僚の車いすユーザーが一緒に泊まれない」との声で実現した宿泊型研修所のバリアフリー化などだ。また、全従業員対象の避難訓練に加え、本社で障害のある従業員を対象にした避難訓練も行っている。訓練にはサポーター社員も一緒に参加するが、聴覚障害のある人からは「煙でなにも見えない状態のとき、逃げるにはどうしたらよいのか」といった課題提起もあり、改善策を検討しているという。2018年からは、障害のある従業員の活躍推進と全従業員の意識啓発を目的とした「チャレンジフォーラム」を毎年開催。きっかけは会長の宮本さんからの「障害のある従業員と、直接対話できる機会がほしい」との要望だった。このイベントには、全国の事業所から障害のある従業員60人以上と、上司や同僚ら150人以上が参加し、トークセッションやパネルディスカッションを実施している。障害のある従業員らが登壇して障害や仕事への向き合い方、職場や社会に求められることなどを語る。参加者からは「職場ではなかなか話す機会がないので、今後も開催してほしい」といった感想が寄せられている。フォーラム後には、障害のある従業員と経営トップによる懇談会も開かれ、日ごろ感じていることや意見を直接伝えている。ここで出た意見をきっかけに、社内診療所のドアの自動化、在宅勤務の制限緩和(週1回→2回、時間単位の勤務可など)も実現した。また、設備改修については現社長の井い上う和か幸ゆさんから「たとえそれを使う人が一人でも、やりなさトップダウンで意識改革のえずきちうとや 62021年に開かれたチャレンジフォーラム(写真提供:清水建設株式会社)2017年に行われた避難訓練の様子(写真提供:清水建設株式会社)社屋の各所に設置された手すり

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る