働く広場2022年8月号
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Kプランニング代表摩訶不思議な糸玉が、現代アート?解体マニアが、リサイクル現場で大活躍 戸原一男職員に必要なのは、「才能」を見いだす能力戯ずをやめることはない。その姿がとても岩手県の「るんびにい美術館」には、優れた障害者アーティストが多数在籍している。その一人が似に里さ力ちさんだ。たこ糸を一定の長さに切りそろえ、それを結び合わせることによって不思議なオブジェを生み出していく。もともと彼女は同美術館の草木染めグループに属していて、染めた毛糸を玉状に巻き取る担当だった。しかし職員の目を盗んでは毛糸をハサミで切ってしまい、それを結ぶという行為をくり返す。これでは商品にならないので何度も注意するのだが、彼女は悪い楽しそうなので、職員はあきらめて自由に糸結びをしてもらうことにした。すると、まさに水を得た魚。思う存分からに1本の糸を切ってはつなぐという行為を、延々とくり返すようになったのだ。そんな経緯で生まれたのが、「糸っ子」と呼ばれる作品である。じつに摩ま訶か不ふ思し議ぎな形状のオブジェなのだが、ある職員がモノは試しと「岩手芸術祭美術展」に応募してみたところ、現代美術部門で優秀賞を受賞するという栄冠に輝いた。まわりにはほとんど理解してもらえなかった糸くずの塊が、美術館の立派なショーケースに展示され、アート作品として専門家から高く評価されたのである。それ以後ずっと彼女はひたすらオブジェをつくり続け、それが立派な仕事となっている。山口県の社会福祉法人ふしの学園「ふ  らた   と   そしのエコ事業所」には、ネジ回し1本でどんなものでも解体できる能力を持った利用者さんがいる。いすやテーブルはもちろんのこと、たとえ大きな機械でも彼の手にかかるとあっという間に細かな部品に早変わり。地域から回収されてきた大型ゴミを分別・分解し、専門業者へと販売するリサイクル工場で大活躍の毎日だ。いまでこそ彼は職場のエース格として信頼されているものの、この仕事に就く前は入所施設のあらゆる家電製品を分解してしまう問題児だったという。子どものころからこうした解体作業が大好きで、職員もその行動には手を焼いていた。転機となったのは、ふしの学園が新たにリサイクル事業を始めることになったときである。職場を異動してもらったところ、才能が一挙に開花したのだ。それまでは家電を分解すると怒られてばかりいた彼だが、職場ではまったく逆。「こんなにみごとに分解してくれた」と褒められ、お金までもらえるようになった。現場で彼は、だれよりもうれしそうに分解作業に勤いしんでいる。こうした事例から、支援者たちは何を学ぶべきなのだろうか。それは、障害のある人たちの潜在能力を見抜く技術を磨くことの大切さだと思う。たとえ一般的には評価されない行動であっても、切り口を変えるとまったく違った側面が見えてくることがある。るんびにい美術館の似里さんも、ふしのエコ事業所の利用者さんも、素晴らしい職員との出会いがあったから、新しい世界が開けてきた。もしかしたら、みなさんがいまかかわっている障害のある人たちにも、とんでもない可能性が潜んでいるのかもしれない。そんな常識の枠にとらわれない発想が、就労支援の現場では求められている。突きつめれば、支援者の「人としての器」が問われているわけだ。それが、障害のある人の未来を大きく左右することになるのだろう。戸原一男(とはら かずお) 約13年前から「SELP訪問ルポ」(日本セルプセンターWEBサイト)や『月刊福祉』(全国社会福祉協議会出版部)にて、290カ所以上の障害者就労支援施設の取材記事を連載する。施設職員を対象とした工賃向上研修会の講師実績も多数。 おもな著書として、『障害者の日常術』(晶文社)、『障害者アートバンクの可能性』(中央法規出版)、『パソコンで絵を保存しよう』(日本エディタースクール出版部)、『ブレイブワーカーズ』(岩波ブックセンター)、『はるはる日記』(Kプランニング)、ほか。働く広場 2022.8第3回「問才題能行」動はと、紙一重19多様でユニークな支援のあり方

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