働く広場2022年8月号
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現在、多くのホームでは夜勤要員の確保に苦労していると聞くが、同社では近隣の大学生40人ほどが交代でアルバイトに入っている。福祉系だけでなく、医学部やほかの学部、そして演劇部、将棋部、バンドなど、サークル活動も多様な学生たちだ。交通の便が悪いこともあるが、アルバイトの学生を大学まで車で送迎するというから驚いた。ときには休みの日に、学生が出演する舞台を数人の社員で観に行くなど、いつもとは違う世界に触れるきっかけにもなっている。同社の理念に共鳴し、卒業後に同社に就職する学生も出てきた。人手不足のいま、地域でよい循環が生まれている。健康管理がうまくできない障害者には、食事と運動への配慮が重要である。ホームでは体操を日課とし、また工場まで歩くことがよい運動になることから、工場への送迎をやめた。また特筆すべき点はスポーツ活動がたいへん盛んであることだ。バスケットボール、卓球、フライングディスク、陸上、空手と多岐にわたる。工場2階には本格的な卓球場をつくり、パラ五輪のシドニー大会に出場するなど優秀な成績を収める選手も出ている。取材は金曜日の午後だったのだが、加藤さんと小川さんとで、週末のバスケットボールの練習について話し合っていた。最近世間では、業務時間外に会社の人に誘われると、「飲み会でも残業手当は出ますか?」と質問してくる従業員がいると耳にする。こうした世相のなか、土日のスポーツなどの活動について社員のみなさんはどう考えているのか、加藤さんにうかがった。「スポーツもレクリエーション活動も、参加を強制することはもちろんありません。断っても、まったく問題ありません。やりたい人だけが参加しています。断るときに、無理に言い訳を考えなくてもよくて、『なんとなく行きたくない』と素直にいい合える文化を大切にしています」スポーツの効用は体力強化などたく     さんあるが、ストレスを発散できることで、対人関係のトラブルなどが減るという「精神的安定への効果」も、大いに感じているそうだ。これから必ず訪れる老化をなるべく遅くするためにも、みんなが参加したくなる楽しい運動を続けていきたいという。「野球の指導では、『判断を怒ってはいけない』というのがあります。ボールを取って、1塁に送球するか2塁に送球するか。その判断を間違えてうまくいかなかったときに、『あの判断は間違いだった』といくら怒っても、野球は上達しません。暗記ではなく判断する機会をたくさん与え、何度も練習することで上達します。私は28歳から9年間、高校の野球部の監督をしていました。公立高校ですから初心者も来ます。ボールを取れない生徒を、取れるようにしたいのです。反復練習、トレーニングが大切なのです」と、加藤さんが話す。学生時代から野球を続けてきた加藤さんは、監督に怒られたことがなく、さらには父親からも怒られた記憶がないという。部活動のなかで、怒らない指導者と巡り合うのは珍しいことであり、加藤さんが社員の成長をじっくりと待てるのは、「怒らない」大人たちに育てられた経験から来ているのかもしれないと感じた。「最近は世間で『ありのままの自分でよい』というメッセージが独り歩きして地域の大学生とのつながり健康増進のための取組みとスポーツ活動怒らない指導と反復練習グループホーム「ねの がっこうまえ1」。学校前工場に隣接する工場は、オートメーション化により品質の確保が図られている働く広場 2022.823

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