働く広場2022年8月号
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教授(東北大学大学院経済学研究科・経済学部経済経営学専攻地域政策講座教授)との出会いがあった。地域イノベーション研究センターで、権教授がイノベーション塾を開催しており、加藤さんの長男の幹■太■郎■さんもそこに通って経営の勉強をした。「当社は会議もミーティングも営業もノルマもないのに、利益を上げていることに権先生が非常に驚いて、そこから交流が始まりました。いまは定期的に訪問し、アドバイスをいただいています。また今回、土地を購入しグループホームを建設するのに、地元の銀行が融資の面で、手続きなども親身に対応してくださいました。ほかにも外部の方の協力をたくさんいただいており、当社が地域・住民に貢献したいと考える活動を応援してもらっています」近年はSDGsが広く浸透したことも理由なのでは、と加藤さんは語っていたが、長年にわたり真摯な経営を行ってきたからこそ、地域から多くの応援・賛同を得られているのではないだろうか。一方で、障害者が働く会社、作業所といえども、最近はコンプライアンスや品質管理が非常に厳しくなっていることも事実だ。万が一のミスを未然に防ぐチェック体制を構築し、地域社会の役に立ち、会社が成長し続けることで、はじめて安定雇用が実現する。現在はまだ同社に足りない評価制度、社員のキャリア支援などは外部の力も借りながら、進めていく計画だそうだ。加えて、加藤さんが考えるもう一つの課題は、「障害のある社員の職域拡大」である。「例えば就労継続支援B型事業所の利用者は、いまはクリーニング業務だけですが、データ入力や請求業務など、いろいろな仕事を増やしていきたいです。ここ数年、優良企業の見学に行くことができなかったので、コロナが収束したら社員研修として全国のさまざまな企業に見学に行こうと思います。とても楽しみです」障害のある人は、その特性により日常生活において不便を抱えることや体調不良が多く、そのうえ、職場にも適応しなければならないのは、私たちの想像以上に努力を要することである。障害が比較的軽く、努力することができる人は、働くことができる。それでは、そうではない人の就労生活を成立させるのに、必要なことは何か。新陽ランドリーグループは、この問題に向き合い、みんなでともに暮らしながら働くことを実践してきた。社長の家族が、障害のある社員と寝食をともにし、「家族」のように過ごすことから始まった取組みは、かなり稀■なケースであろう。しかしその後、組織の成長過程で、単なる一家族の活動ではなく、組織として社員全員が賛同・参画する社風に見事に進化している。なかなか真似できることではないが、この実践のなかに「障害者雇用」において大切なことのヒントがあるのではないか。もちろん、問題はたくさんある。仕事の覚えが早くない人もいるし、同僚との人間関係を上手に築けない人もいる。それでもその「違い」を否定せず、仕事は環境を整備しながら少しずつ教え、いろいろと巻き起こる人間関係は、みんなで前向きに笑いに変えて解決していく。そのために、障害の有無とは関係なく、お互いをよく見つめ理解しようと努力する。決して小さくはない組織体でありなが     ■■■前 ら、家族のような愛情にあふれる、とても魅力的な企業で、そのエッセンスを大いに取り入れたいと感じる取材であった。家業から企業へ「ねの しんさか」の洗面室「ねの しんさか」の浴室。一人ずつ交代で利用する「ねの しんさか」の寝室働く広場 2022.825

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