働く広場2022年8月号
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一見わかりにくい高次脳機能障害の特性と職場の理解促進〜高次脳機能障害の職場復帰支援〜私たちは人生の途上で、ある日突然、思いがけない事故(交通事故、スポーツでの事故、転倒など)や病気(脳血管障害、脳炎、脳症、脳腫瘍術後の疾患など)が原因で、脳に損傷を受け、高次脳機能障害になることがあります。高次脳機能障害は、①目に見えない、②本人も自覚しにくい、③ある特定の状況や場面に現れるため、周囲から理解されにくい障害です。脳機能の障害が医学的にはわかりやすい病態の場合でも、一般の人には想像しにくく実感が湧かない症状であることが、理由にあげられます。外見は以前と変わらないため、本人も障害を実感しにくく、病気や事故以前と同じように仕事ができると思っている人が多いのです。同様に、周りの人も以前と変わらないと思ってしまいます。しかし、職場に戻ってから以前のようには仕事ができないことが顕■わとなり、トラブルになることもあります。本人は「職場の人が自分のことをわかっていない」ととらえ、職場の人は「注意しても自分のことがわかっていない」と考えるようになるためです。脳に損傷を受けたことで、脳の認知機能(注意、記憶、遂行機能、社会的行動)が低下し、日常生活を送るなかで意識せずに実行できている基本的な機能(注意する、記憶する、企画を立てて実行する、他者とのコミュニケーションを持つ、暗黙の了解、など)が損なわれるために、トラブルが起こるのです。職場に復帰する際には、主治医や医療スタッ    ■2がら、課題を解決していくことが求められます。フから高次脳機能障害についての説明を受け、「職場では具体的にどのようなことに気をつけると仕事が可能になるのか」、「どのような仕事であれば可能なのか」を、本人と職場の担当者が理解する必要があります。〝その人の高次脳機能障害の特性〟について共通の認識を持ちな脳機能障害の定義を「『高次脳機能障害』という用語は、学術用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる」と明示しました(※)。以下にそれぞれの症状を説明します。2006(平成18)年、厚生労働省は、高次 話す、聞く、読む、書くなどの言語機能がうまく働かなくなった状態。具体的には相手が言っていることは理解できるが、自分が伝えたいことが言えない(ブローカ失語)、相手が言っていることが理解できず、自分が言いたいことを言ってしまう(ウェルニッケ失語)、字が読めない、文字が書けない、などの症状。高次脳機能障害のある人の職場復帰で気をつけること京都文教大学臨床心理学部教授・産業メンタルヘルス研究所所長高次脳機能障害の特性 失語中島恵子※ 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部、国立障害者リハビリテーションセンター「高次脳機能障害者支援の手引き」平成18年働く広場 2022.8

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