働く広場2022年8月号
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日常的な道具を使った簡単な行為(ハサミを使う、眼鏡をかける、お茶をいれる、など)がうまくできない症状。視力や視野に問題はないが、見た物が何であるかがわかりにくい症状。触ったり、聞いたりすればわかる場合もある。えられない、思い出せない症状。集中力、二つ以上の情報の同時処理、必要に応じて注意を変換するなど、情報処理の基本的な機能がうまくいかない症状。自分が立てた目標に対して効率的な計画を立て、計画通りに実行するという一連の行為がうまくできない症状。自発性や意欲が低下したり、抑制が効かなくなったり、抑うつなどの精神症状などが現れる症状。神経疲労集中し続けると疲労しやすい症状。休憩職場復帰は、高次脳機能障害のある本人の業務レベルに合わせることが重要です。業務レベルとは、任される仕事がどのくらいの情報量を処理しなければならない業務なのかを示すものです。事務職といっても、採用や人材育成など自分で計画して実施する仕事から、郵便物の仕分け・配布、会議資料の準備、データ入力、書類のPDF化、ファイリングなどまで、さまざまです。任せる仕事には、作業工程や注意点がどれだけあるかを確認する必要があります。例えば、Aという仕事は処理できても、業務の難易度が同じBへの応用はむずかしいことがあります。AができるのでBも可能と考えがちですが、新たな仕事や能力以上の仕事であった場合、本人は混乱し、ミスが多く出ることもあります。新たな仕事をお願いする場合は、事前に「業務分担表」を明示し、業務の分担について本人と話し合い、「業務分担表を改訂して関係者に周知する」とよいでしょう。職場復帰の際には、本人がどのような仕事をするのかを事前に話し合い了解してもらうことを取りながらであれば続けることができる。が必要です。そのために、医療機関では、本人に障害への自己理解をうながすリハビリを実施し、職場では、一緒に働く人たちに障害の特性を理解してもらうことが必要となります。職場の理解を促進するために、医療機関で説明を受けた担当者が、復職する人の高次脳機能障害の特性について職場の人たちに前もって伝えることで、誤解やトラブルを防ぐ効果があります。部署、仕事内容など職場内での調整が必要となるため、本人と何度か話し合い、確認をとりながら、復職までのプロセスを進めていきます。事前の調整なく復職したことで「仕事ができない」、「疲れて休んでしまう」など、職場では思いもかけないことが起こる場合もあるので、十分な事前の調整が必要です。可能であれば、仕事の時間を段階的に増やして完全復帰へのプロセスを取ると、本人は集中力の回復が実感できるため自己調整ができるようになります。本人が職場にすぐ戻りたいといっても、配属職場の理解促進 失行失認記憶障害見たこと、聞いたこと、話したことを覚注意障害必要な情報を選択する(選択性注意)、遂行機能障害社会的行動障害 代表的な失認に視覚失認があげられる。(なかしま けいこ) 京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科教授。博士(健康科学)、公認心理師。 臨床神経心理学において、高次脳機能障害・認知リハビリテーション・復職支援を専門とする。2019(平成31)年より、京都文教大学産業メンタルヘルス研究所所長に就任。身体障害と異なり見えにくい障害といわれる高次脳機能障害者の就業について研究を進める。 おもな著書・監訳に「高次脳機能障害のグループ訓練」、「子どもたちの高次脳機能障害ー理解と対応」(以上、三輪書店)など。中島恵子   3働く広場 2022.8

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