働く広場2022年9月号
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 裁断作業を1人でいろまぶ8ました」と話す。しかし当時、久田さんが出場を目ざすアビリンピック「洋裁」種目の県予選は、実施されていなかった。栗原さんたちはあきらめられず、「挑戦できる方法はないでしょうか」と県の担当者に何度もかけあったそうだ。その結果、県内で公募を呼びかけたあと、久田さんは県に推薦してもらう形で、2019年の第39回全国アビリンピック愛知大会の出場資格を得ることができた。一方の久田さんは、舘上さんから「アビリンピックに挑戦してみる?」といわれ、最初は驚いたが「はい、やってみます」とその場で答えたそうだ。そして、久田さんも新たに特訓を受けることとなった。その後、念願かなって出場した第39回全国アビリンピック。競技課題は、オーダー仕立ての「オーバーブラウス」製作だった。久田さんは「日ごろの仕事でやることのない、手縫い作業に苦労しました」とふり返る。2回目の出場となった昨年の第41回全国アビリンピック東京大会の「洋裁」種目では、とくにミスもなく時間内で完成させることができた。周囲のレベルが高かったこともあり入賞は逃したものの、審査員から一定の評価をもらったという。その評価によって久田さんは、技能検定「婦人子供服製造」2級の実技試験の免除を受けることができた。いまもものづくりマイスターから教わりながら、残る学科試験のクリアを目ざして勉強中だ。今年の第42回全国アビリンピック千葉大会へも出場予定の久田さんは、「次は小さなミスもせず、前回よりきれいに仕上げられるようがんばりたいです。職場でも、担当できる作業を増やしていきたいです」と抱負を語ってくれた。久田さんの入社を機に、さらに福山北特別支援学校の卒業生2人が、本社工場と福山工場で働いている。その1人が、本社工場の製造部裁断グループに配属されている2019年入社の飯い隅ぐ信の宏ひさん(22歳)だ。裁断グループは、本社工場の正面玄関を挟んで縫製グループの向かい側にある。広い作業場には、長さ50mほどのベルトコンベアの上を、布地がゆっくり流れていく。コンピュータ制御された機械の下を通ると、自動的に服のパターンに沿った裁断の線が入る。最後に、人の手で布のパーツを1枚ずつ取り上げ、残りの切れ端がそのまま大きな箱の中に落ちていく仕組みだ。ここで飯隅さんは、裁断機のタッチパネル操作や布の取り上げ作業などを1人で行っていた。特別支援学校時代に、職場見学のあと実習を3回ほど経験したという飯隅さんは、「もともと裁縫にも興味があったので入社を志望しました」と話してくれた。入社後はアイロンやミシン作業などをひと通り経験したが、「失敗して布地をダメにすることが多かったです」と明かす。一方そのころ裁断グループでは高齢の従業員の後継者を探しており、飯隅さんに挑戦してもらったところ、操作をすぐにパーツの布を取り上げる飯隅さん裁断グループで働く飯隅信宏さん

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