働く広場2022年9月号
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Kプランニング代表タスカルカードを導入し、職場の雰囲気が一変 戸原一男モチベーションを引き出すさまざまな工夫自主性を育てると、作業効率が向上する茨城県にある社会福祉法人ユーアイ村の「ユーアイキッチン」という多機能型事業所では、独自に開発したシステム「タスカルカード」を導入し、利用者支援に劇的な変化をもたらしている。毎日、朝早くから大量の弁当を製造し、目が回るような忙しさなのに、「いつも笑顔があふれる楽しい職場」に変わったというのだ。私が取材でお邪魔したときにも、障害のある人たちが活き活きと働いている姿がとても印象的だった。タスカルカードの特色は、作業工程     しきうん  うっにある。作業内容や順番はその日によっを細分化してイラストつきのカードにし、当日の予定を利用者自らが設定する(カードをタテ列に並べていく)ところてまったく異なるため、以前は一つの仕事を終えるたびに「次は、何をすればいいですか?」と何度もたずねてくる人が多かった。余裕があるときならともかく、バタバタしていると職員もついイライラし、「さっき説明しましたよね?」と反応してしまう。すると利用者は気落ちして、仕事への意欲も落ちてしまう……、そんな悪循環だったのだ。タスカルカードの導入後、職場の雰囲気は明らかに改善したという。カードにしたがって自ら次の仕事に向かっていく彼らの姿は、自信に満ちている。職員も細かい指示をする必要がなくなったので余裕が生まれ、対応が優しくなった。「できないことを叱る」のではなく、「できたことを褒める」支援に特化するため、雰囲気が明るくなり、生産効率も大幅に向上したのである。崎ざ」では、「封入→封ふ緘か→宛名貼り」とこのような職場改善を、積極的に導入する施設も全国には数多い。ダイレクトメールの発送代行を行う、愛知県の多機能型事業所「ワークセンターフレンズ星ほいった工程を分解し、複数の利用者がかかわれるように工夫している。これは、重度障害のある人にも作業参加をうながす配慮でもある。そしてそれ以上に重要なのが、分担すると作業スピードが格段に上がることだ。場合によっては、一人で全工程を行う職員よりも早いこともある。利用者の特性を見きわめ、もっとも得意な工程に専念してもらうと、まるで職人のような能力が発揮されていく。千葉県にある社会福祉法人まごころの多機能型事業所「ビーアンビシャス」で取り入れているアンバサダー制度も、非常にユニークである。毎年利用者のなかから立候補者を募り、当選した人が施設見学に訪れるお客さまの先導役に選ばれるのだ。ステキなグリーンジャケットを着て颯さ爽そと施設内を案内していく利用者の顔は、きりっと引き締まっている。「あんな仕事を自分もしてみたい」、みながそう憧れるから、毎年のアンバサダー選挙は大いに盛り上がる。激戦を勝ち抜いて当選した人は、アンバサダーとしての責任感から、普段の仕事においても格段の成長を遂げるそうだ。今回紹介した三つの事例は、働く人の自主性を育てることの大切さを教えてくれる。仕事の醍醐味というのは、そもそもやるべきことを自ら考えるなかにある。指示を待つだけでは、いつまでたってもやりがいなど感じられるはずがない。利用者たちが活き活きと動き出せば、職場の雰囲気が明るくなり、仕事もできるようになる……こんな正のスパイラルが生まれていくはずなのだ。もちろんこれは、障害者就労の現場にかぎった話ではないのだけれども……。戸原一男(とはら かずお) 約13年前から「SELP訪問ルポ」(日本セルプセンターWEBサイト)や『月刊福祉』(全国社会福祉協議会出版部)にて、290カ所以上の障害者就労支援施設の取材記事を連載する。施設職員を対象とした工賃向上研修会の講師実績も多数。 おもな著書として、『障害者の日常術』(晶文社)、『障害者アートバンクの可能性』(中央法規出版)、『パソコンで絵を保存しよう』(日本エディタースクール出版部)、『ブレイブワーカーズ』(岩波ブックセンター)、『はるはる日記』(Kプランニング)、ほか。働く広場 2022.919第4回引働きき出手すの自方法主性を多様でユニークな支援のあり方

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