働く広場2022年9月号
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したか。感じることや、今後の抱負を聞かせてください。ありました。金融機関に融資を申し込みましたが、通常のケースと同じ金額とはなりませんでした。車いすユーザーが厨房に立って経営する飲食店の前例はなく、どれだけ稼げるのかわからないというのが大きな理由のようでした。そこで、知人からのすすめで挑戦したのがクラウドファンディングです。トイレの改装費として180万円を目標金額に設定し、支援を募りました。目標金額を達成するためには、「できるだけ多くの人に会って、顔と名前を売ったほうがいい」と助言されたのですが、以前から顔見知りだった地域の女性団体の人たちが、幅広い人脈を活かして、あちこちに連れて行ってくれてありがたかったですね。3カ月ほどで100万円以上集まりましたが、目標金額には届かず、資金を手にすることはできませんでした。しかしこのとき、予想外の効果がありました。新聞やラジオなどで紹介され、地元以外の多くの人たちにも私のことを知ってもらえるようになったのです。周囲から背中を押され、再びクラウドファンディングに挑戦。今度は目標金額に届かなくてももらえる形にし、100万円以上が集まりました。じつは、物件探しも一苦労で、最初の物件が破談になるアクシデントがあったのですが、必死に物件を探して3カ月後に見つけたのが、自宅から10分ほどの場所にあるいまの店なのです。厨房は車いすが回転できるよう通路の幅を広          3くりました。客席は、カウンターとテーブルをげ、調理台の下も車いすが入り込める空間をつ合わせて26席。もともとあった座敷部分を取っ払い、すべて車いすで動ける床にしました。トイレは通常のものと、オストメイトの方用の設備や赤ちゃんのおむつ替え台も備えた多目的トイレの2カ所です。もろもろ含め改装に約1千万円かかりました。店の名前は、応援してくれた人たちと一緒に考えました。車いすの車輪の「わ」と和食の「わ」、人の「わ」を重ねた「わっ嘉(か)」です。――オープンしてから、お店の状況はいかがで飲食店を切り盛りするうえで、自分が物理的にできないことはたくさんありますから、いまは1人のスタッフがサポートしてくれているほか、別の仕事をしている妻も、空いた時間に掃除や弁当の盛りつけなどを手伝ってくれています。店から車で15分ぐらいの魚市場にも、妻と一緒に買いつけに行きます。オープン直後から、店の話を聞きつけた方たちが全国各地から来てくれています。ただ、何組かのお客さまが立て続けに入店すると、スムーズに料理などを出せなくなります。私自身はとても忙しいけれども、周りからはのんびりペースに見えるようです。つまり「忙しくても、急ぐことができない」わけです。いまは、なるべく来店前にメニューの予約などをお願いしています。車いすで仕事をしていると、背中の痛みが悪化するので、たまにマッサージ師さんに来ても(※2)などの活動をしていきたいと考えています。らいますが、その方は全盲の視覚障害者です。先日施術に来てもらったときは、店内で中小企業経営者の集まりも開かれていたので、そこで紹介し、新たな交流が生まれました。この店が、社会のいろいろな立場の人たちの橋渡しの場にもなっていけたらよいなと考えています。――車いすユーザーとして飲食店を運営して労しています。でも店で働いていると、あっという間に一日が終わってしまうんですよ。店で働いていると、脊髄損傷による体のしびれも忘れられる気がします。たくさんの人とかかわることができるからかもしれません。れば家の外に自分の居場所をつくることをおすすめします。私の経験からいって、半年以上も家でじっとしていたら、再び外出するのは精神的に困難になるのではないでしょうか。自由に動けていたころの感覚やイメージが残っているうちに、どんどん外に出るとよいと思います。そして「めずらしくない車いすユーザー」になりましょう。を活かし、私と同じように脊髄損傷などで車いすユーザーになった人たちに向けてピアサポートコロナ禍も重なり、正直、経営そのものは苦私と同じような障害のある人にも、可能であ私自身は今後、これまで経験した苦労や学び 「急げない」ペースを理解してもらう社会のなかに居場所を※2 ピアサポート:「仲間・同輩」(peer)による支え合い活動(support)のこと

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