働く広場2022年10月号
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Kプランニング代表団員たちの特技を活かした仕事づくり障害のある人の個性が求められる時代 戸原一男多彩な能力を持つ支援者を集めようこれまで全国の障害者就労支援施設で取り組んでいる多様な支援事例を紹介してきた。共通しているのは、利用者たちの個性を最大限に活かし、人に仕事を合わせるという考え方である。最後にもう一つ、奈良県にある就労継続支援B型事業所「特定非営利活動法人なないろサーカス団」を紹介しておきたい。この施設の特色は、障害のある人たちを「なないろの個性を持つサーカス団員」と定義しているところである。理事長の中川直美さんは、その意図を次のように語っている。 「(知的)障害のある人たちは、決してチャリティの対象になるような存在ではありません。むしろ一人ひとりがみなユニークな表現手段を持っていて、とてもチャーミングな人たちなのです。その魅力をきちんと伝えれば、もっと地域の人気者になると考えました」そこで利用者のことをあえて「団員」と名づけ、彼らの個性に寄り添った仕事づくりを行った。料理が得意な人には、ランチ担当シェフを任せる。絵画や人形づくりが得意な人には、創作活動に専念            してもらう。手工芸品を人にプレゼントするのが趣味の人には、「人を幸せにする」という大切な役割がある。彼らの個性を積極的にアピールしながら住民との密接な協力関係をつくり、それを「商品」にするという地域密着型の事業展開をくり広げている。こうした発想から、地域に住む高齢者を対象とする御用聞きサービスへと進化していった。ひとり暮らしの高齢者にとって、知的障害のある人たちに独特の「人なつこさ」や「満面の笑顔」は、心の癒やしになる。「電球を取り替えてほしい」、「ゴミ出しをしてほしい」、「お弁当を届けてほしい」という要望に応える生活サポートサービスは、今後ますます求められていくのではないか。さらにアイデアを膨らませてみよう。例えばダンスが得意なダウン症の人たちとプロのフィットネスインストラクターがコンビを組み、地域住民を対象としたエクササイズ教室を運営してみる。あるいは、しゃべることに関して卓越した能力を持つ障害のある人が、カフェでお客さんと雑談を交わすことを仕事にする……。障害のある人たちが不自由な身体を駆使して苦手な作業をするのではなく、天性として持っている才能を使うだけで立派な仕事になる世界。存在そのものが価値であり、地域の人たちから必要とされる世界。それはまさに、彼らが「ありのままで良しとされる世界」の実現だろう。近年、厚生労働省は「我が事・丸ごと」の地域共生社会を目ざした地域づくりを積極的に推進している。その中心的な役割を、ぜひとも障害のある人たちにも、になってもらいたいというのが私の考えである。福祉の専門家だけでなく、多様な職種、多彩な能力を持った支援者を集めることで、それは初めて可能になる。これまでの発想では、考えもつかなかった人材の発掘。福祉の世界など、まったく無縁だった人材の勧誘。彼らを障害のある人たちと交えることで、革新的な化学反応が生じるはずなのだ。ぜひとも各地で、多様でユニークな就労支援活動が次々に生まれていくことを期待したい。戸原一男(とはら かずお) 約13年前から「SELP訪問ルポ」(日本セルプセンターWEBサイト)や『月刊福祉』(全国社会福祉協議会出版部)にて、290カ所以上の障害者就労支援施設の取材記事を連載する。施設職員を対象とした工賃向上研修会の講師実績も多数。 おもな著書として、『障害者の日常術』(晶文社)、『障害者アートバンクの可能性』(中央法規出版)、『パソコンで絵を保存しよう』(日本エディタースクール出版部)、『ブレイブワーカーズ』(岩波ブックセンター)、『はるはる日記』(Kプランニング)、ほか。働く広場 2022.10最終回良あしりとのさまれまるで世界19多様でユニークな支援のあり方

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