働く広場2022年10月号
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ゼーション法のレクチャー、精神保健福祉士は就労・生活に関する制度面での支援など、それぞれの専門性をもとに、トータルで就労支援を行えます。定着支援に関しても、医療機関には定期的に診察という形で来院されますので、定着支援の期間を設ける必要はなく、毎月必ず当事者と会えるという利点もあると考えます。就労後のリスクに早期介入と対応ができ、医療情報について責任を持って企業に直接提供できるので、企業からの信頼も勝ち得ることができるのです」精神障害のある人の雇用を継続するには、“医・職・住”の一体的で継続的な支援が担保されることが重要となります。今回の取材からは、そのための方法の例として二つあることがわかりました。一つは、IHIが2018年に採用した5人のうちの3人が継続して働いている場合の、就労定着支援事業所による“支援機関型就労支援”です。医療機関から引き継いだ就労支援機関の担当者による支援が、日常生活の安定化と業務の遂行に著しい効力を発揮しています。この場合、支援担当者の資質が職場定着に大きな影響を与えていました。もう一つが、小野寺さんの例に見た精神科医療機関による“医療単独型就労支援”です。主治医や関係スタッフの“専門的多職種チーム”による支援は、本人のみならず、雇用企業自身も安心感が得られるとされます。ですが、就労支援を医療機関と連携しながら進めることは、実際にはそう簡単ではないといわれています。その背景には医療機関側の課題として、精神科医は多忙であり、就労や復職の可否を的確に判断することが容易ではないという状況があります。また、就労支援機関に関する情報や支援方法を知らない、支援機関と連携する必要性に対する認識も乏しい、診療報酬がつかないことから就労支援に労力を割きにくいといったこともあります。また、就労支援機関側の課題としては、本人の精神症状の状況を的確に把握して、調子を崩しやすい状況やサインとそれへの対処が求められます。そのためには、それをになうスキルを持つ担当者が不可欠でしょう。こうした課題があるなかでも、精神障害のある人の医療機関との連携による雇用事例は少なからずあり、「医療機関の障害者雇用ネットワーク」(※1)でも紹介されています。では、こうした課題にどのように対処していけばよいのでしょう。“支援機関型就労支援”では、医療関連の専門職を配属するか、精神科医療やリハビリテーション分野を学修した人材を育成していくことが求められると思います。また、“医療単独型就労支援”では、地域生活への移行と定着には就労支援が不可欠との認識のもとに、デイケアを充実させることが必要でしょう。そのためには、これをになう人材の育成と配属が必修の要件となるでしょう。また、デイケアを障害福祉サービス提供機関として認定する制度的な改革も必要かもしれません。これらに共通することは、就労支援人材の育成です。その重要性については、厚生労働省の審議会(※2)でも指摘されるように、今後の障害者雇用施策の重要な柱のひとつとなっています。特に、医療機関においては、キャリア支援を支える価値観をもって、企業と共同して継続的に支援する視点を有した人材が不可欠となるでしょう。           学修の場は数多くありますが、個人のペースに合わせた多様な習得方法を活用し、よりよい人材育成につながることを願っております。医療機関との連携のあり方 ※1 医療機関の障害者雇用ネットワーク https://medi-em.net※2 厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会意見書〜今後の障害者雇用施策の充実強化について〜」(令和4年6月17日)   https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000952801.pdf精神保健福祉士の清澤康伸さん働く広場 2022.10(1)連携の方法(2)連携を推進するには25

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