働く広場2022年10月号
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しかしながら、補助犬法は、制定20年目のいまも認知度が低いために飲食店や店舗、美術館や旅館、病院などでの同伴拒否が絶えないという実態があります。また、法律の課題として補助犬使用者にとってもっとも重要といえる住居については、公営住宅以外では同伴受け入れは努力義務とされ、法制定時に法施行後3年経過時の検討規定が設けられていましたが、未だ実現できていません。また職場での受け入れについては、障害者雇用促進法に基づく法定雇用率によって算出した、一定規模以上の常用労働者がいる事業所には受け入れ義務がありますが、それ以外の事業所は努力義務とされています。このように現在は、住居同様、障害者全体を受け入れる環境が十分に整っているとはいえない状況です。介助犬の対象となる障害者は、身体障害者手帳を持つ上肢体不自由や体幹機能障害といった、手足に障害のある方々です。介助犬希望の際には、私はリハビリテーション科医師として、基礎疾患や障害の状態から、生活上の課題や自立・社会参加における解決すべき課題と本人のゴールまで、介助犬訓練士や社会福祉士、理学療法士、作業療法士らとチームになって評価・  3  計画をします。希望者は、20代から50代で障害により仕事を諦めた方も多く、介助犬によって自立できるようになったら働きたい、社会貢献したいとおっしゃる方ばかりです。介助犬導入の際は合同訓練として訓練士が使用者の自宅の近くに泊まり込み、在宅と職場、地域での実地訓練を行い、その間に職場での受け入れについても実地訓練を行います。介助犬の排泄や衛生管理の方法、普段はほぼ足元で寝ていて邪魔になることはないことなどを説明するとともに、介助犬の役割や有効性も説明します。それが、職場の人にとって初めて補助犬使用者の困難を理解する契機となり、職場における相互理解が深まる契機にもなることを多く経験しました。職場で何か不安があればいつでも支援対応できるとお伝えすることが、職場の人の安心感となります。そして受け入れてみれば、介助犬は職場の人気者になり、会社のPRに活躍したり、社員の楽しみになっているとの報告も聞いています。ただ、全国の補助犬使用者や訓練事業者から相談を受けるなかには、補助犬を受け入れる取組みもできない事業所もあり、社会的理解が浸透することが望まれます。は、使用者である障害者自身を受け入れることにほかなりません。この記事が、「まずは受け入れてみよう」という意識につながる契機になれば幸いです。補助犬とともに働くことを受け入れること補助犬の職場での受け入れ補助犬とともに働くこと(資料提供:社会福祉法人日本介助犬協会)(たかやなぎ ともこ) 医学博士。社会福祉法人日本介助犬協会専務理事、一般社団法人日本身体障害者補助犬学会理事、愛知医科大学客員教授、横浜市総合リハビリテーションセンターリハビリテーション科非常勤医。 愛知医科大学医学部卒業後、沖縄県立中部病院研修医、市立舞鶴市民病院内科医を経て東京医科歯科大学大学院医学部博士課程修了、人畜共通感染症についての研究で博士号取得。 厚生省(当時)の1998年度厚生科学研究介助犬の基礎的調査研究班、身体障害者補助犬法立案に学識経験者として尽力、厚生省介助犬検討会、介助犬訓練基準・認定基準検討会、身体障害者補助犬法の施行状況に関する検討会委員などを経て補助犬法政策づくりに貢献。2014年からは国土交通省交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会専門委員も務めている。2014年東京弁護士会人権賞受賞。 おもな著書に『介助犬』(角川書店)、『リハビリテーションスタッフのための介助犬まんがマニュアル』(医歯薬出版)、共著として『介助犬を知る』(名古屋大学出版会)などがある。【参考】社会福祉法人日本介助犬協会ホームぺージ https://s-dog.jp髙■友子働く広場 2022.10

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